ねぇ、覚えてる?

小さい頃、シロツメクサの冠で。

私はあなたのお姫様だった。

あなたは云ってくれたでしょう?

“俺といつまでも一緒にいてください”

覚えてくれてる?

もう忘れてる?


何度も何度も、逢えない夜を繰り返して。

何度も何度も、同じことで泣いていた。

あなたの声が聞きたくて。

あなたの無事を確かめたくて。

たった一言が云えなくて。


あんなに苦しかった日々はもう嫌なのに。

どこかで感じてるの。

あの時あなたはすごく近くにいて。

簡単にまた遠くに行ってしまうって。

きっと私はまた待たなくちゃいけないって。


それでも。


どうしてこんなに好きなのかな?



どうしてあなたじゃなくちゃダメなんだろう?




いつだって。

あなたの帰る場所で在りたいの。

あなたがどこかで迷ったら。

すぐに帰って来れるように。

此処で。

待っていてもいい?




Flower




辺りはもうオレンジに染まっていた。
もう夕方。
帰る時間だ。


「蘭、送ってくよ?」


当たり前みたいに差し出される手に、蘭は小さなその手を重ねた。
ぎゅっと握り締めてくれるのが嬉しくて。
蘭はこっそりと笑っていた。
もう片方の手にはたくさんのシロツメクサとクローバー。
一つだけ、4枚の葉っぱがついたクローバーがあった。
新一が見つけ出してくれて、蘭にプレゼントしてくれたのだ。
帰ったらお母さんに押し花にしてもらおう・・蘭は決めていた。


「・・・・あ〜あ、なんだか蘭といると時間が短いよ。」
「?」
「すぐに夕方になっちまうんだもんな。」


なんだか新一はおもしろくなさそうだ。
なんでだろう?
蘭と遊ぶのはつまらないのかな?
ちょっとだけ悲しくなって、蘭は瞳を伏せてしまった。


「??・・ら、蘭??どうしたんだよ?そんな顔して・・・」
「・・・・って・・」


慌てた新一は心配そうに蘭の顔を覗き込む。
そんな顔を見ていると、余計に嫌な気持ちになった。


「・・だって・・新一・・怒ってるみたいに云うんだもん・・」
「・・・ち、違うよ!?蘭を怒ってるんじゃねぇよ?
えっと、時間がわりぃんだよ!!時間が!!」
「・・・じ、かん・・?」


立ち止まった蘭はきょとんと新一を見上げた。
その瞳にオレンジの光が閉じ込められて、綺麗に瞬いた。
新一は思わず考え込んでしまう。


「・・・・あのさ、蘭・・・」
「なあに?」
「その・・もっと大きくなってさ、夜遅くまで、一日中だって
一緒にいられるようになったら・・・その時は、ずっと一緒にいよう?」


なんだか新一はすごく恥ずかしそうだ。
ほっぺたが赤い・・・夕日のせいじゃないよね?


「今よりずっと大人になったらさ、一日ずう〜〜〜〜っと。
一緒に遊んでいようぜ?」
「・・・・うん。うん!約束ね?」


小さな小指がキツク結ばれた。
その強さに蘭は嬉しくなって笑ってしまう。
新一は・・心の中で何度も繰り返す。
約束したかんな!?絶対に大人になったら、一日一緒にいてやる!


・・・その時はまだ、純粋な気持ちままで・・・



帰り道。
不意に新一は思い出した。
きっかけはこの土手の道だ。
事件が片付いて、帰ろうとちょっと回り道をした時。
あのオレンジ色に染まった光景を思い出した。

あの時と同じ夕日の中で、あの頃の自分達と同じくらいの
子供が二人。
仲良さそうに遊んでいた。
必死に何かを探してるようだ。
思わず笑みが零れる。
近寄らなくても分かった。
四葉のクローバーを探してるんだ・・・
あの日の自分を思い出す。
あの時の気持ちを思い出す。
あれからずいぶん大きくなったはずなのに。
まだずっと一緒にはいれねぇな・・・
せいぜい一晩か二晩が限界だ。
まだまだ大人じゃねぇってことか・・・。



なあ・・・蘭は覚えてるか?

あの頃も今も。

変わらずにお前は俺のお姫様で。

お前は云ってくれただろう?

“いつまでも一緒にいてあげる”

覚えてるか?

忘れちまったか?


何度も何度も云えない夜を繰り返して。

何度も何度も同じことで泣かせてた。

お前の笑顔が見たいのに。

お前をこの手で抱きしめたいのに。

たった一言が云えなくて。


あんなに苦しかった日々はもう嫌なのに。

どこかで理解している。

あの時お前は許してくれていた。

簡単に俺を信じて。

きっとまた泣かせてしまうのに。


それでも。


どうしてそんなに強いんだ?



どうしてお前は笑って全てを許してくれる?




いつだって。

お前のいる場所に帰りたい。

我儘だと分かってても。

俺が帰りたいのは。

お前だけなんだ。

待たせてもいいか?


いつまでなんて。

約束一つ出来ないのに・・・

それでも必ず云うから。




迎えられる言葉。


「お帰りなさい、新一。今日は早かったねぇ」


優しい声。
愛しい笑顔。
大切な日常。
当たり前の生活が、何よりも・・・



告げられる言葉。


「ただいま、蘭。」


安堵する声。
ホッとして見せる笑顔。
大切な言葉。
当たり前の生活が、何よりも・・・



やっぱり俺は・・・

・・・やっぱり私は




“此処に帰りてぇ・・・”




“・・・此処にいたい”


Written by きらり

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