日曜日の午後。
春の日差しは思う程強く。
風は少し強いけれど、こうして洗濯物はよく乾くし。
本当に良い季節になった。
これがなければ・・・もっとだけど。


庭の樹の下で、丁度よい木陰を見つけて新一は寝転んでいる。
何ヶ月かに一度植木屋さんがきてよく手入れをしてくれるこの庭は、
この間手入れされたばかりのせいか瑞々しい翠を弾いて、活き活きとしていた。
その芝生の上にタオルケットを広げて転がっている新一。
横には何冊もの分厚い本。
そのほとんどが推理物で・・朝食を済ませてから新一はずっとあのままだ。
蘭はというと、片付けてから掃除をし洗濯物を全て洗濯して・・
やっと最後の干す作業が終了したところ。
もう昼食の時間が近付いている。


「らーん!」
「なあにー?」


少し離れてる為蘭は大きめの声で返事をした。
新一は転がったまま、こっちに手を振っている。
来いと呼んでいるようだ。
やれやれと、蘭は白いエプロンを外してサンダルに履き替えて庭に下りる。


「なぁに、新一?」
「なぁ、まだ終わんねぇの?」
「今、終わりました。なに、もうお腹空いたの?」


クスクスと笑って蘭は腰を下ろす。
新一の気に入りの場所なだけある。木陰が丁度よい。
暖かな日差しの中、ここはすごく快適だった。


「こっち来いって。」


腰を下ろした蘭の腕を引っ張って、片手を開いてそこをポンポン叩く。
一緒に横になれというのか・・・


「もう、誰が見てるか分かんないでしょう?
やぁよ、そんなとこで寝てるの。」
「大丈夫だって!この庭外からじゃ覗けねぇのお前もよく知ってんじゃん。」
「・・・そうだけど・・」
「ほら、疲れただろ?少し休めったら。」


まるで子供みたいな我儘で、新一は蘭を引き寄せる。
その腕の強さ。
支えてくれる腕の力。
それにハッとする。
どんなに子供っぽい顔をして見せても、新一はやっぱり男の人で。
蘭にはない力を持っていた。
そして何より・・・


「な?気持ち良いだろー?」
「・・・うん。」


子供みたいな新一。
けれど、こんなふうなのも悪くないなぁって思う。
やっぱり私は新一が好きだ。
どうやったって、敵うわけないんだ。
少し悔しいけど、嬉しくて頬を枕にしている腕に摺り寄せた。


「気持ちいいよなぁ・・ずっとこうしててぇな。」
「・・・これからお昼作るから・・何が食べたい?」
「・・・まだ良いよ。もう少し休めって。
まだ腹減ってねぇから。」
「はいはい。」


少し離れると、簡単にこんな顔消しちゃうのに。
新一は一人で家にいると、本当に子供のままだ。
私に甘えて我儘云って。
困らせて、抱き締めてくる。
学校や外ではそれなりに距離を保ってくれるくせに、本当に二人きりの時は遠慮がない。
嬉しくもあるけど、驚く時もある。
まるで、子供の時のまま。
それでもその強さは男の人で。
そしてその力は絶対なのだ。


「・・・なぁ・・」
「なに?なんか云ったか?」
「ううん、あったかいなぁって云っただけ。」


誤魔化すけど、新一は気にしない。
私は少し上手になったのかな?
コナン君に笑いかけた時みたいに、上手に笑えてるのかもしれない。

でも今は、本当に暖かくて。
温かくて。
嬉しくて。


「春はいいよなぁ〜〜。一年中春でいいよ。あったけぇし。」
「本当に怠け者ねぇ、新一は。」
「怠けてなんかいないぜ?休める時は休む。
それだけさ。」


そうね・・行く時はどうしても行ってしまうもの。

それを知ってる。
許してる。
最初から全部。
あの時、見送った時よりも。

ずっと前から、私はその強さを知ってたんだよ?


「蘭・・・ずっとこうしてよう?」
「だから・・」
「違うよ。ずっとだ。」
「・・・・」


繰り返された意味を知る。
気付いて何も云えなかった。
新一はズルイ。
新一は強い。
その力はずっと思い知ってるの。

だから笑ってしまう。
目を閉じて。
この温もりに甘えてしまう。

小さい頃からずっとそうだった。


『泣くな、ずっと一緒だから』

『大丈夫だから。』

『・・・待ってて欲しいんだ・・・』


そのどれも。
新一の言葉には特別な『力』がある。


「・・・ちょっと怖い。」
「・・・何がだよ?」


呟いた声に新一は反応して、私に聞いてくる。
笑って誤魔化した。
でももちろん、許してくれなくて。
クルっと身体をまわして、私を抱き締めてくる。


「やだ、離してってば。」
「何が怖いんだよ。・・・俺か?」
「・・・違うよ。」


ああ、もう子供みたいなんだから。
ずっと変わらないのね、その傷ついた時の顔。
そんな顔を見ると私は・・何をしたってあなたを守ろうって思えてしまうんだよ?


「新一の言葉って絶対だから。」
「?」
「本当に、そうなるんだろうなぁって思って。」
「・・・?」


分かってない新一の胸にオデコをくっつけて。
私は顔を隠した。


「怖いけど、大好きよ?」
「・・・俺も好きだ。蘭のこと・・ずっと、変わんねぇよ?」



少し、私たちの気持ちはズレてる。
変わるかもしれないことが怖いんじゃないの。
変わらない、それが怖い。
ずっとそうだった。
新一の言葉は絶対で。
私はどんなに哀しくても、不安でも、怖くても。
新一が云ってくれるなら、きっと大丈夫って思えてしまって。
新一が待ってて欲しいというなら、いつまでも待っていようって思えた。
どんなに怖くても、不安でも、哀しくても。
先にある『絶対』が見えなくても、あると分かってたの。


だから、怖いんだ。

きっと変わらない。

時間は流れても

何かが少しズレてても

そんなの意味がないくらい

そんなの後から付くくらい

私の中で新一は絶対で。


今云ったように

きっとずっとこんなふうに一緒にいてしまう




時間が掛かっても

『本当』になってしまうと、分かってるから







二千二年三月十八日(月)
★無料配布本


Written by きらり

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