MADOKA補足:WEB拍手(CLAP!)にある漫画に合わせて書いてくれましたv









朝一番に


目を開いて


君を見つける


夢じゃない


確かな体温


耳を擽る寝息


幸せの重み






Moment of bliss







あ、と思う。
何度訪れてもこの瞬間は……。



安らかな暗闇から、薄い朝日に包まれた空間に戻ってくる毎朝繰り返される瞬間だ。
目覚める瞬間ってのは、どうにも不可思議な感覚だよなと新一は思う。
柔らかな枕に沈んだ頭で考えを馳せる。
夢を見ていたわけじゃない。ただ真っ暗だったハズなのに、それは黒ではなくあたたかな感触なのだ。
あれの説明だけはどうにも理屈がつかねー…
片腕の指先までを視線で辿り、そして腕に在るこの優しい重み、温もりの存在にも同感を得た。
ガキの頃から、それこそ何万、いやもう何千万って回数を見てきた顔。
そりゃ成長はしている。
自分だって形(なり)だけは立派に成長したつもりだ。
こいつを守るだけの、抱きしめるだけの、強さは手に入れたつもり。身体能力のそれとは別にして、だが。
伏せられた瞼。
その奥の黒い瞳が自分だけを映す瞬間が待ち遠しくて、どこか未だに照れくさい。
何千万回見てきたのに。
触れれば滑らかな髪の感触がパジャマ越しでも皮膚に伝わってきた。
よく知っている、シャンプーの匂い。
鼻を擽るその甘さに笑みが浮かんだ。自分も同じ匂いを纏ってることなど忘れて、そっと顔を寄せる。

「…ぅん…」
「……」

身動ぎせず、ジッとその寝顔を見守った。
眩しそうに眉間に皺を寄せ、それから枕にしている腕の感触を確かめるように軽く顔を横に振る。
すぐに落ち着いたのかホッと力を抜くと、再び規則正しい寝息へと変わった。

「…蘭」

内緒話よりももっと小さな囁き声。
その名前こそ、何千万と呼んだのだろう。
なんでもない日常の中で、時として強く、ただ守りたい、それだけの一心で必死に。
そして確かめるわけでもなく、ただ空気のように当たり前の存在のとして、息を吸って吐き出すように当然に洩れるいとおしい存在の名前。
カーテンに包まれたオレンジの空間の中で、ふふ、と蘭の唇が笑みを象った。
目を瞠る新一に構うことなく蘭の笑みは穏やかな寝顔に元通る。

なんだよ、ビックリさせやがって…

驚いた。けれど、それ以上にただ嬉しかった。
なんでもない日常の中の、とんでもなく幸せな朝の繰り返し。
目が覚めた瞬間に、この世の誰よりも大切な存在が自分の中にある。

そーいやいっつもこのカタチだな…

寝てる時まで離したくない、抱きしめていたい。
あからさまな自分の腕の位置に苦笑する。
頭であれこれ考えてない時程、体は心に正直のようだ。

大人しく腕の中に収まってくれている蘭の体が僅かに動いたのを感じる。
足先がピクリと自分の足に触れ、それから何かを握る形の指が何度か開きかけた。

もうすぐ、あの目に自分一人が映し出される。

それに気付くと新一は笑みを浮かべ、それからすぐさまその笑みを消した。
知らん顔決め込んで、タヌキ寝入りだ。




朝一番に


目を開いて


君を見つける



至福な瞬間を、



俺で知って














***
2010/06/11
贅沢なんです。恋する男ってやつは(笑)


Written by きらり

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