LOVE & LOVE









深い眠りの中で何かに気が付く。
腕の中の温もりがない。
底から引っ張り上げられるように、俺は眠りから覚めた。
「蘭?」
今までこの腕に抱いていたはずの蘭の姿がない。
薄明かりだけが灯る部屋の中を見渡す。
扉が開いて、薄白い光が見えた。
下にいるのか・・?
俺はベッドから起き上がると、その辺に放ったままのパジャマを着込んだ。
そうして机の上の時計を見る。
時刻は夜の3時過ぎ。
どうしたんだ?蘭は・・・?
物音が微かにする。
俺は階段を足音をさせないように下りた。
光はキッチンから洩れている。
扉の隙間から中の様子を見た。
蘭が冷蔵庫を開けて何か注いでる様子が見える。
咽喉でも渇いたのか・・・?
そういや俺も・・・。
そうして俺は扉を軽くノックした。
「きゃ・・新一?」
「俺しかいねぇに決まってんだろ?」
少し驚いて肩を竦めた蘭に俺は歩み寄る。
そうして俺の腕の中から消えた身体をようやく抱きしめる。
勝手にいなくなりやがって・・・。
冷えた髪が頬にあたる。
「起こしちゃった?ごめんね・・咽喉が渇いて、ミネラルウォーター飲んでたの。
新一も飲む?」
俺の腕の中から身を捩り、蘭はグラスに手をのばそうとする。
それを抱きとめて、俺は口付けた。
少し驚いて俺を映し、そうしてその瞳は閉じられる。
俺はその口内に深く忍び込む。
その中がひんやりとしていて、気持ちいい。
何度もそれを絡めると、口内は濡れて熱くなっていく。
息苦しそうに蘭が逃れようとする。
それを許さないで俺は頭をしっかりと押さえ込んだ。
引き寄せて、そうして求める。
もっと深く。
もっと甘く。
それを味わせていてーーー?
「・・あ・・新一・・・」
ようやく解放してやると、蘭は力なく俺の肩に顔を埋めた。
小さく笑って、俺はその背を優しく叩く。
あやすように何度も。
その呼吸に合わせて、ゆっくりと。
そして片手でミネラルウォーターのボトルに手をのばした。
乾いてた咽喉にそれを流し込む。
そうして口に含み、もう一度蘭の顔を上げさせた。
「?」
ぼんやりとした瞳が俺の目を見上げる。
その色に惑わされる。
なんて目で見やがるんだよ。
俺はもう一度口付けた。半開きの唇に割り込んで、それを流しこんだ。
驚いた蘭が肩を震わす。
そうして小さく咽喉が鳴った。
飲み込んだそれを確認すると、笑みが零れた。
可愛い奴・・・。
もう一度、今度は触れるだけの。
それでも派手にちゅっと音を立てて、俺はキスをする。
「・・・もう・・」
恥ずかしそうに目を伏せる。
頬が赤くなっていて、それが可愛くてしょうがない。
でもな、お前が悪いんだぜ?
俺に黙っていなくなるから。
この腕から離れていったからだ。
絶対に離してくねぇんだよ。
いつもお前は平気に笑うから。
俺がいなくても、事件に行っても。
お前は平気で笑う。
自信に満ち溢れてて、その優しい笑顔で俺を見送る。
俺だけが。
お前から離れることが出来なくて、お前のことしか考えてなくて。
俺は・・・。
「・・・ふぁ〜〜ぁ。」
「・・・・」
小さな欠伸。
笑みが零れる。
そうだ、お前はいつも・・・。
俺はしっかりと蘭を抱きしめる。
「新一?」
「ねみぃ・・」
その感触を味わう。
その温もりを貪って。
俺は蘭に・・。
「それじゃ、もうベッドに戻ろう?新一・・・ねっ?」
甘やかす時のその声。
優しくて、甘くて。
俺は力が抜けそうになる。
その身体を抱きしめて、そうして頬にキスをする。
何度も。
啄ばむように、そっと繰り返した。
「くすぐったいよ〜〜。ね?もう戻ろう?」
その口付けから逃げて、蘭は俺を覗き込む。
瞳が綺麗に俺を見上げて。
一瞬、ここで抱き倒したい気持ちになるが・・・。
俺はそれを抑えた。
さすがにこんな場所で蘭をどうこうしようなんて気持ちは・・・
少ししかねぇ。
まだ夜は長い・・それに明日は休みだ。
一日たっぷり時間はある。
それこそ朝も昼も、夜も関係なく。
お前の身体に、この温もりに溺れていたい・・・
「きゃっ!?」
ひょいと蘭を持ち上げて、そうしてキッチンを後にする。
電気のスイッチを消し、そうして階段へ向かう。
「ねぇ新一・・・自分で歩けるから、下ろして・・ね?」
「ダメだ・・・このまま・・・」
階段を上る。
さっさとベッドに戻りてぇんだ。
このまま離したくなんかない。
お前を抱きしめたままベッドに戻り、そうして・・・。
何度でも足りない。
いつだって足りない。
何度繰り返しても。
何度繰り返されても。
満足出来ない自分がいる。
いつだって、この身体を求めてる。
好きで好きで、しょうがねぇんだ・・・。


なんだろう?
しつこいくらいのキス。
繰り返される名前。
時々新一はすごく性急に少し苛立った様子で、私を抱く。
まるで手当たり次第みたいに私の身体に触れて、そうして安堵の息を漏らす。
それがくすぐったくて私は気恥ずかしさに身が熱くなる。
普段はすごく優しくて、私よりずっとずっと余裕があって・・・
それが少し悔しいくらいなのに。
「・・新一・・?」
「・・・・」
返事がない。
あるのは規則正しい寝息だけ。
ホッとして笑みが零れた。
私を抱きしめたままの腕から少しだけ離れようとするんだけど、適わない。
キツク抱きしめられたまま・・・。
それでも決してそれは息苦しいモノじゃなくて。
新一はきちんと私が居心地が良いように抱いていてくれる。
そのままそこに収まって、私は目を瞑った。
新一の心音が耳に伝わってくる。
うとうとしてくるんだけど、その気持ちよさが勿体無くて・・・
もう少し起きていたい。
でも・・今日は一日一緒なんだっけ。
それなら眠ろうかな・・・?
でも・・・もしかしたら事件に呼ばれちゃうかもしれない。
そうしたら、新一はきっと・・絶対に行っちゃうから・・。
だからもう少しだけ、起きて一緒にいたいのにな・・・。
それなのにこの腕の中はとても温かくて。
優しくて安心してしまう。
そうして・・安らかな眠りに誘われてしまう・・・。


くすぐったい・・・。
髪を弄られてるんだ。
誰よりも好きな手が、髪を何度も梳いてる・・・
見られてる・・・。
それが分かる。こうして瞳を閉じていても。
誰よりも強い瞳が私を映していてくれる・・・・
・・・?
何度も繰り返されるそれ。
頬に、耳に、首筋に。
時々甘い痛みが私に伝わる。
これって・・・・新一のやつ〜〜〜。
「・・・こら。」
私は重い瞼を少しだけ開いて、睨みつける。
そこにはにっこりと上機嫌な新一の顔・・・
「やっと起きたのか?」
「なに、してるのよぉ〜〜〜。」
寝返りを打って、顔を枕に押し付けた。
いつのまにかパジャマのボタンが二つ開けられてる。
全く、もう・・・。
「だってお前なかなか起きねぇんだもん。
退屈だったから、黙って見てたんだぞ?」
嘘つき。
黙って見てるだけだったら、私だって目覚まさないよぉ〜。
何時だろ?
ベッドのサイドのボードに乗ってる、目覚し時計を確認した。
「・・・もうこんな時間なのっ?!」
慌てて起き上がろうとする。
でも。
身体が上がらない。
「新一・・・重いよ?」
「まだ起きなくてもいいだろ?休みなんだからよぉ。」
だからってぐーたらしてていいわけないでしょう?
時刻はもう午後になろうとしてる。
なんとか新一の身体の下から抜け出ようと、私は力をいれる。
・・・・ダメ。
何でこういう時だけ、こうなんだろう?
「新一・・。」
すっかり困ってしまって、私は彼を見上げる。
嬉しそうににやにや笑ってるのがおもしろくない。
でも・・なんだか嬉しくもある。
新一、こういう時しか甘えてくれないからなぁ。
私はすっかり諦めて、枕に埋もれた。
「!」
髪を掻き分けて、うなじに口付けられる。
その感触がなんだか奇妙で、私は慌てて払った。
「こら、怒るよ?」
「怒れよ?」
新一はしっかり主導権を握ってる。
こういうとき、何をしても何をいっても・・・私は適わないのだ。
別に、勝とうとは思わないんだけど・・・。
「蘭・・・」
私がすっかり諦めたのが分かったのか、新一は本格的に私にのしかかった。

それでも決して全体重はかけないでくれてる。
その重みが気持ちよくて、私は目を閉じた。
どうしたんだろう?
新一がこんなふうに甘えてくるなんて久しぶり。
嬉しいんだけど、少し不思議だった。
あんまり最近逢えなかったから?
こうして二人きりの時間少なかったもんね・・・。
「ずっと・・こうしててぇ・・・」
「?」
「眠い・・・」
「まだ眠いの?」
思わず笑みが零れる。
私は新一の前髪を掻き上げて、その額にそっと口付ける。
一瞬驚いたような新一の顔が幼くて、私はなんだか温かい気持ちになる。
「・・・・蘭・・」
にやりと意地悪く笑う。
その顔を見て、なーんか嫌な感じがする。
こういう顔する時、ろくでもないこと考えてないんだもの。
「もう少し・・・いいだろう?」
「ダーメ。やだ・・ってば・・ちょっと・・新一ぃ・・」
「少しだけ・・なっ?」
なっ?って・・聞いてるわりにはもう手出してるじゃない。
その上目遣いで見上げてきて、返答を待ってるわりには
手止まってないし・・・・バカ。
恥ずかしくて私は見を捩って、新一の手を逃れた。
それでもしつこく私を追ってきて、その手は優しく触れてくる。
「もう、こらぁ〜!・・本当に・・・っ起きるんだから・・」
「蘭・・・」
そのかすれた声にドキリと心臓が高鳴る。
昼間から・・そんな声で呼ばないでよ。
・・・力が抜ける・・どうしよう・・・このまま・・・

♪トゥルルル・・トゥルルル・・・

「・・・・・」
新一の手が止まる。
無言のまま固まって、そうしてそのまま布団を被った。
ノーマルの着信音。
それは事件を知らせる音でもある。
「・・・」
「・・新一・・・出ないの?」
「・・・・」
着信音はずっと鳴ってる。
必要時しか使用しないため、留守電にはなってない。
そのためいつまでも、着信音は鳴り響いている・・・・
「だああああっ!!ちっくしょーーー!」
ガバっと布団を跳ねて、新一はそのままベッドを降りた。
ハンガーにかけておいた上着の内ポケットから携帯を取り出す。
「・・・もしもし・・・」
私はその隙に外されたパジャマのボタンをしめなおす。
そうしてホッと息をつくと、薄い毛布を被って新一の方を見つめた。
「・・はい・・そうですか・・場所は?・・」
ものすごい不機嫌な声。
それでもあの口ぶりでは・・事件のようだ。
残念だけど、ものすごくホッともしてる。
「分かりました・・・はい、それではまた・・」
携帯を握ったまま、肩を落としてる。
「・・・新一?」
私は上半身だけ起こして、新一の表情を覗き込もうと屈んだ。
「・・・」
新一はそんな私を見て大きく溜め息を漏らすとベッドに腰掛けて、
私の髪を弄る。
「・・・これから迎えが来るってよ。隣町で殺人事件だ・・・」
「そう、あ、じゃあ軽く何か食べる?用意するよ?」
「いい。聞いたらもう迎えの車よこしたって言うから、すぐにきちまうよ・・・
ったく、こっちの都合も確認しろよなぁ〜。」
肩を落として項垂れてる。
新一、疲れてるのかな?
「今日はせっかく一日お前といられると思ったのに・・・ちくしょう、
俺の計画が台無しだ。」
「どこか行くつもりだったの?」
「まさか。」
あっさりとそう言いきられる。
それじゃあ何を計画してたんだろう?
考えてもさっぱり分からない。
そんな私を見つめて、もう一度新一は溜め息を漏らす。
「朝、昼、夜と・・・・・はぁ。
しょうがねぇ、さっさと事件を片付けて、夜に全部済ませちまおう!」
そういって立ち上がると、新一はものすごい早さで着替え始める。
私はというと膝を折って座り込んだまま、これから何しようかな?と考えていた。お天気もいいから洗濯してお掃除して・・夜には帰ってくるだろうから
夕飯の買い物して・・・。
新一が好きな物、たっくさん作って待っててよう。
ネクタイを締めながら新一は窓際に寄った。
窓を開けると、丁度外で車が家の目の前で止まる音がする。
「早ぇな・・」
それを確認すると、新一は私の傍に戻ってきて腰をおろした。
「行ってらっしゃい。待ってるからね?」
「ああ、さっさと片付けて帰ってくるよ。んじゃ行ってくる。」
「うん。」
抱きしめられる。
その温もりに目を閉じる。
「俺のこと、考えてろよ?」
「?」
私を抱く腕が離れて、新一のあの目が私を捕えていた。
「俺が帰ってくるまで、ずっと俺のこと考えててくれ。
何してても、どこにいてもだ。他の誰のことも、考えるんじゃねぇぞ?」
「・・・・」
そんなの無理に決まってるよ〜。
私は一応頷いて見せておく。
「・・・いいな、俺のことだけ考えてろ?」
「・・ぅん・・」
深いキス。
口内までその熱さが伝わってくる。
今までのよりずっと短いけど、その分荒く熱い・・・
「じゃ、行ってくる。お前もう少し寝てれば?」
「・・・行ってらっしゃい・・」
やっとそう言えた時には、もう新一は廊下を駆け下りていた。
車の扉が閉まる音が聞こえる。
そうして急発進してその音は遠ざかった。

「全く・・・」
私はベッドから起き上がる。
そうして窓際で外を見下ろした。
もう車は小さくなっていた。
きっと今頃は事件の内容でも聞いてるんだろうな。
私のことは頭からもうないかな?
うんっと伸びをして、そうして私は洗濯にとりかかる。
シーツも全部洗っちゃおう。
それからもうお昼だけど朝ご飯食べて。
そうして今日一日の予定を考えようっと。
新一の部屋掃除して、買い物に行って新一の好物のメニューを
考える。
帰ってきたらすぐにお風呂に入れるようにしておいてあげよう。
お帰りなさい、お疲れ様。
そう言って、微笑みかけてあげたい。
疲れたでしょう?って甘やかしてあげたいな。
そうしてたっぷり干しておいた布団で眠って欲しい。
疲れがいつまでも残らないように・・・。
「?」
そういえば、さっき新一何を言ってたんだろう?
なんの計画を練ってたのかな?
帰ってきたら聞いてみよう。
枕カバーとシーツをもって、階段を下りる。
本当に、早く片付くといいな・・・。
そうして私は気がついた。

さっきから。
本当に新一のことしか考えてないじゃない。
「・・・・・」
恥ずかしくて頬が熱くなるのが分かる。
鏡を見なくても分かった。

すごく赤い顔してるに違いない。

悔しくて、少しだけ笑えた。














END・・・・HAPPY?


Written by きらり

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