星の降る夜










金と銀の星の形。
色とりどりの色紙の輪っか。
長いそれはいくつも作られて、緑の笹を飾っていく。
渡された短冊を見つめて、俺はしばらく考え込んでいた。

そもそも今日は七夕だ。
しかも今年は上手いことに土曜日である。
こんな絶好の日和を、アイツ等が見逃すはずがなかった。

「ねぇ博士〜〜、もっと高いところにこれ飾って!」
出来たばっかりの星の飾りを歩美はねだって高い位置につけてもらっている。
その近くで光彦はせっせと飾り紙を作り、その隣りでは元太が懸命に短冊に
何か書いていた。
「あら?あなたは願い事書かないの?」
後ろから覗き込んできた灰原が俺の白紙の短冊を見て笑った。
あからさまにバカにしたようなその笑みが気に入らない。
俺はふてぶてしく、そちらを睨む。
「そういうおめぇだって、どうせ書くことねぇんだろ?」
「私にはあるわよ?」
「へ〜〜。どんな願いが見てみたいもんだね」
嫌味ったらしくなるのも仕方ないだろう。
俺はこんなのおもしろくもなんともねぇんだ。
アイツだったら違うんだろうな・・・。
「見る?」
目の前に白の短冊が突き出される。
「・・・・おめぇは小学生か?」
「あなたも小学生でしょ。」
相変わらず嫌な奴だ。
くすくすと笑うと灰原はそれを博士に渡しに行く。
俺をそれを横目に頬杖をついた。
「あら?コナン君は何も書いてないの?」
「わああっ!?」
突然の声に俺は思わず声をあげた。
振り返ると不思議そうに首を傾げた・・・
「ああ〜〜蘭お姉さんv」
歩美たちが嬉しそうに駆け寄ってくる。
「遅かったですね。僕達ほとんど飾り付け済ませちゃいましたよ。」
「蘭お姉さんも願い事書きなよ〜。たくさん短冊余ってるからv」
あいつ等いつの間に蘭を呼んだんだ?
聞いてないぞ・・・アイツも暇だなぁ、ったく。
「ありがとうvもうこんな時間か〜〜それじゃ今夜はみんなに美味しいカレー作って
あげるねぇ。」
「わ〜いっ!」
「私手伝う!!」
「僕も手伝います」
「俺も味見する〜!!」
おいおい・・・ったく、蘭が困ってるじゃねぇか。
「それじゃあお願いしようかな?博士、キッチン借りますね。」
「ああ、すまんのう蘭ちゃん。」
「・・・私も手伝うわ。」
歩美たちに連れ去られていく
蘭の後を灰原も付いて行った。
俺と博士だけが残される。
「・・・・」
「やれやれ賑やかになるのう。ん?短冊は書けたのかね?」
「ああ?書くことなんか特にねぇよ。」
こんな紙きれに書いたって俺の願いは叶いっこねぇからな。
・・・それでも、もし叶うなら・・・・無理だな。
呆気なく答えが出る。
「どれどれ皆どんな願いを書いたんだじゃろうな」
博士は笹に飾ってある短冊を眺め出した。
「ふむふむ・・毎日ごちそう食べ放題、か・・」
おいおい元太、そんなの別に書かなくてもいいようなことじゃねぇか。
「なになに?世界の七不思議百科事典前編後編が欲しい・・」
光彦か・・・
「えっと・・コナン君とずっと一緒にいれますようにv
モテモテじゃな、新一・・」
「バーロー」
俺はつまらない気分でそれを遮った。
「ずいぶんとご機嫌斜めじゃな。・・ん?」
不意に何かに気付いたように、博士は笹飾りを見つめた。
その中の白い短冊を手にとり、目を細めてそれを読んでいた。
「・・・灰原のか?」
「ああ。あの子は新作のゲームソフトが欲しいんじゃとよ。」
「ったく、子供じゃねぇんだからよ」
「そうかね?」
「・・・?」
博士の言葉に俺は無言で返した。
云ってる意味が分からない。
俺は、俺たちは子供でしかないのか?
「元の身体だって新一は高校生じゃろう?ワシに比べれば、まだまだ子供じゃよ。
それに・・哀君は違う。
ずっと組織の中に閉じ込められていた人間じゃ。」
「・・・・」
「まともな青春も送れていなかった。きっと君達のように学校へ通う楽しさ、
友達との会話そんな当たり前のモノが望めない世界だったろう。・・・彼女は
やっとまともに成れてきたんじゃよ。平凡な願いを書くことができるようになった。
それは決して、悪いことじゃない。」
「・・ああ、そうだな・・・」
分かってる。
そう思ってても、分かってねぇんだろうな。
理解したいとも思ってねぇんだ。
俺は・・・我儘だ。
自分だけが苦しくて、自分だけがなぜこんな目に。
・・・自分の無力を棚に上げて、今目の前で苦しめてる現実に逃れている。
蘭を一人にしている。
蘭を待たせている。
いつ帰れるか、その保証も出来ないのに。
俺はお前を・・・
『待っていて欲しい』
たった一言、それだけでお前の時間を縛り付けていた。
俺の願い。
元の姿に戻ること。
そうして蘭の元へ帰ること。
そしてこの思いを遅いけど今更かもしれねぇけど、伝えること。
「ああ、暑い・・・・」
かちゃりと音を立ててリビングの扉が開く。
そこには気だるそうに項垂れている灰原の姿。
ゆっくりとソファに座り込み、ふぅ〜っと息を漏らす。
「どうしたんじゃ?」
「ただでさえ、キッチンは暑いっていうのに・・普段の倍以上の人がいるもの
だから暑くて敵わないわよ。」
「そうか・・それじゃ向こうに扇風機でも運ぶかな?」
「熱風しか来ないけど、気休めにはなるんじゃない?」
「それじゃ行ってくるよ。そうじゃ空調も少し調節してみるかな?」
ブツブツと聞こえるくらいの独り言を言いながら、博士は部屋を出て行く。
残された俺たちは言葉もなく、ただ座り込んでいた。
「・・・降るわね」
「ああ、そうだな・・・七夕は毎年天気悪いからなぁ」
窓の外を見つめながら、灰原は窓に歩み寄った。
そうして寄りかかって、窓辺に座り込む。
膝を抱くように座りながら、窓の外の空を見上げて笑った。
「天の川ね・・・一年に一度だけの逢瀬。
今年は無理ね・・・雨だわ」
「・・・星の川に雨は関係ねぇだろう」
「そうね。でも・・・見ている方はそう思えないでしょう?
本当はいつでも空の向こうで会えてるのに、何も知らずに空を見上げるしか
術がない人たちには、それは理解出来ないのよ。
雨だから・・・ああ、今年も無理だったなぁってね」
「・・・・」
俺は答えなかった。
コイツが何をさしているのか、ようやく思い至ったからだ。
相変わらず遠まわしな言い方しかしねぇ女だよな。
「・・・地上ではいつ会えるんでしょうね?
織姫と彦星は・・・」
「てめぇ、さっきから嫌味か?」
あら?と意外そうな顔をしてもそんなの今更だった。
くすくすと笑みを零すと、灰原は窓辺に飾られた笹飾りを見つめて
あの微笑みを浮かべた。
時々見せる、全てを諦めきったような顔。
それでもどこか嬉しそうな瞳。
それが混じり合った不思議な微笑。
コイツって笑ってるのかどうなのか、曖昧な表情するよな・・・
「違うわよ。私・・・こんなふうに飾りとか作るの初めて。
すごく小さい頃・・お姉ちゃんが作ってくれたんだけど、私・・・
願い事なんてなかったのよ。
その時・・・ずっとこのままなんだって、信じて疑ってなかったから。
ふふ、バカみたいだけどね。」
「・・・・・」
「だから、今日はおもしろいなぁって思ったの。
・・・本当よ?」
「ああ。」
そんな当たり前な顔するな。
こんなのは当たり前のことなんだ。
子供だったら単純に喜んですること。
俺だって小学生の頃までは、蘭と一緒に笹飾りを作って願い事をたくさん書いて、
そうして吊るしてたさ。
ずっと蘭と一緒にいれますように。
ホームズのような探偵になれますように。
サッカーが上手くなりますように。
大人になっても蘭と一緒にいたいって。
どれも必死にお願いしてた。
今は、どれも簡単に叶う願いなんだと知った。
努力次第でどうにでもなるんだ。
探偵にだって、サッカーだって努力次第でどうにでもなる。
蘭とだって、俺が努力さえ出来れば一緒にいれるかもしれない。
少なくても。
あの時から今までずっと一緒にいれたんだ。
こんなふうになるなんて、思ってもなかったから。
想像も出来なかった。
いつか大きな事件をいくつも解決出来る探偵になりたいと思っていた。
だけど・・・その事件に自分が巻き込まれるなんて、俺は想像出来ていただろうか?
蘭はどう思ってたんだろう?
そして、今はなんて思ってる?
「・・・蘭さんってどんな願い事書くのかしらね?」
「・・・決まってるじゃねぇか・・・」
唇を噛み締める。
握った拳に気付かぬ間に爪を立てていた。
分かりきっていた。
蘭を願いを。
それなのに、俺は何も出来ないんだ。
こんな時思い知る。
無力。
コナンの俺。
俺がもし新一だとしても。
俺は蘭の願いを叶えてやれてるだろうか?
でも、思わずにはいられないんだ。
俺が新一の姿だったら、蘭にそんなこと願わせることもなかった。
新一の姿だったら、もっと・・・・
「あなたって・・・本当にバカね。」
「・・な、に?」
「自惚れるのもいい加減にしたら?
蘭さんの願いが、今あなたが思うようなものだと思ってるの?
たいした自信なのね。」
挑むような瞳が俺を見つめていた。
挑戦的な真っ直ぐな瞳。
お前がいつそんな目をして俺を見るようになった?
どうして俺はその目から逃れたいと思うんだ?
俺は・・・間違ってない。
だから背ける必要もない。
そんな目で見られることも、してないはずだ。
それなのに。
俺は今何も言い返せないでいる。
そうだ、いつまでも蘭が俺を望んでくれる保証はない。
けど・・・今はそうじゃないようには、まだ見えない。
俺にはそう思えるのに、もしかしたら・・地上で曇って見えてないのは
俺の方なのか?
「・・・あー暑かった!!」
「敵いませんよ〜〜〜。すごく暑い」
バタバタと賑やかに駆け込んできたのは歩美と光彦だ。
「おい、お前ら元太はどうしたんだよ?」
「元太くんなら、まだ味見のお手伝いしてますよ?」
「やっぱりこっちはクーラーが効いてて、涼しい〜〜〜v」
歩美はう〜んっと伸びをして、そうしてソファに腰をおろす。
さっきとは雲泥の差。穏やかな瞳をして、灰原は立ち上がる。
「私飲み物でも入れてくるわ。待ってて、オレンジジュースでいい?
・・・江戸川君も」
「・・・ああ」
部屋を出て行く灰原を慌てて光彦が追った。
「僕も手伝いますよ!一人じゃ運ぶの大変ですもの」
「あら、ありがとう。」
・・・子供らしく笑うじゃねぇか。
俺と一緒の時とは全然違うな。
ま、俺もだけどさ。

静かにしまった扉の音。

パタパタと歩美が歩く音が響く。
俺は少し目を閉じていた。
眠ったフリをしていよう。
なんだか目を開けて、あれこれ見たり聞いたり考えたり。
面倒になった。
頭の中でうるさくさっきの言葉がぐるぐると渦を作る。

『まだまだ子供・・・』

『・・地上ではいつ・・・』

『・・・自惚れるのも・・・』

『・・・の願いが・・・』

『たいした自信なのね』

自信なんかねぇよ。
でも・・そう信じて疑わない。
俺はやっぱり自惚れてるのかもしれねぇな。

「・・あ、降ってきちゃった・・・」
残念そうな歩美の声。
そしてサアアッと雨の音。
「これじゃあ織姫さま彦星さんと逢えないね・・・」

独り言が悲しそうに響く。
俺は何も言えなかった。
このまま眠りてぇな・・・
その時。

「おーいご飯だぞおおお!!」
「・・・・・・」
元太の声が部屋の中で木霊する。
あの野郎・・・無駄に元気なんだよなぁ、ったく・・・
「行こう、コナン君v」
いつの間に俺のとこに来ていたのだろう?
小さな手が差し出される。
迷いもなく俺に。
俺は少しだけ眩しくて目を細めた。
子供らしい仕草。
俺も・・・見た目が子供なのなら。
少しは子供らしくいれたらいいのに。

それすらも叶わない。
俺は・・・子供じゃいられない。
それなのに、元にも戻れないんだ。

目が曇って、本当が見えてないのは、俺の方?












「それじゃあ、まったねぇ。」
「月曜日に学校で会いましょう。」
「蘭姉ちゃん、マジでカレー美味かったぜ!ごちそう様〜〜!!」
「それじゃワシ等はこの子達を送っていくからな。
気をつけて帰るんじゃよ。」
車に乗り込んだみんながそれぞれに一言残して手を振った。
蘭は嬉しそうに微笑んでそれを見送る。
夜の7時を過ぎた。
博士と灰原は車で歩美たちを送っていった。
俺と蘭は、近所だし歩いて帰る。
雨が降っている。
まだ止まない。
明日も、雨だそうだ。
蘭は無言だった。
俺も口を開ける心境ではなかった。
なんだか嫌に沈黙が重い。
電話でもするかなぁ?
蘭に・・・。
そうして話がしたい。
俺の願いが叶えばいいな。
そう蘭が願ってくれてればいい。
「ねぇ、コナン君。」
「えっ?な、なあに?蘭姉ちゃん??」
慌てて見上げると蘭が楽しそうに笑って、俺を見下ろしていた。
「願い事、なんて書いたの?」
「・・・別に。その・・早く大きくなれますようにって・・・」
「やだコナン君、身長気にしてたの?」
目を丸くして、蘭は俺を見つめる。
俺は気恥ずかしくて、その視線から逃れた。
「・・・うん、早く大きくなりたいんだ・・・」
そう一日だって早く。
元の身体に戻りたい。
「そっか〜〜。ふふ、まだそんなに気にするほどじゃないよ?
今平均でしょう?コナン君。
きっと中学生になったら、あっという間に大きくなっちゃうよ?
・・・新一も、そうだった。」
「!」

見上げると、もう蘭は前を見ていた。
懐かしそうに今ではない時を、見ている。
まただ。
俺を置いて、俺のいない、俺の思い出を見つめてる。
「ら・・蘭姉ちゃんはなんて書いたの?」
「・・・私?ナイショv」
「・・・新一、兄ちゃんのこと・・・?」
「えっ?!」
驚いたように跳ねた蘭の声。
見なくても分かった。
その頬を紅く染めて、そうして蘭は俺を見下ろしている。
「・・・うん、ナイショだよ?」
「うん・・・」
差し出される手の平。
それを見つめた。
ゆっくりと右手を重ねる。
蘭の左手が俺の手の平の二周り程大きくて。
すごく温かくて、妙な気分になった。
俺は小さい。
俺は子供で。
俺は追いつかない。
追いつけない。
このまま・・・・もう一緒にはいれないのだろうか?
蘭の願い一つさえも、叶えられないんだろうか?

「ね、コナン君・・見てみて?」
「・・・」
「星が見えるよ?」
「・・・」
星なんか見えるわけがなかった。
雨はまだ降り続けてる。
大降りではないが、やみそうもなかった。
顔を上げると、悪戯を思いついたような無邪気な蘭の微笑。
立ち止まった蘭の手が離れる。
俺はそれを見送って見上げた。
「見てて?ほら・・・」
博士から借りた透明なビニール傘を、すぐ傍の電灯の白い光に透かした。
「?」
透明なビニールに弾く雨の雫が、傘の上で幾つモノ水玉になっている。
それに白い光が反射して・・・雲が覆う濃いグレーの空に幾つモノ
雨の雫が光を弾いて星を浮かび上げて見せた。
「あ・・・」
「ねっ?」
子供みたいに笑う蘭。
ウインクを一つ飛ばして、彼女は笑う。
そうして嬉しそうに空を仰いだ。
「きっと、逢えているわ。
織姫も彦星も。
だから・・・私達の願いもきっと叶うよ?」
「・・・」
うん、そうだね。
そういいたかったのに、たったそれだけが言えなかった。
咽喉の奥が痛い。
声にならない。
思いを告げられない。

やっぱりそれは俺が子供だから。
見た目よりも、俺が思うよりも子供だったから。

曇っていたのは、俺の方。












一年後。

七月七日。
七夕。
今日も朝から雨。
予報だと今日一日夜まで雨は止まない。
おそらく当たるのだろう。
雨は止む気配を見せなかった。

俺の家の窓際には小さな七夕飾りの笹の枝。
蘭が一人でせっせと飾り付けしていた。

キッチンからはカレーの匂い。
一年前と何も変わっていなかった。
ふと窓の外を見ていた視線を笹に流す。
何枚モノの短冊。
その中で一枚だけ、おかしな短冊が混じっていた。
それは薄いピンクだったであろう短冊。
これだけ、紙が古かった。
「?」
その短冊を読んでみる。
蘭の丁寧な文字。
だけど、これだけやっぱり他の短冊とペンが違う。

『新一が無事でいますように。
 きちんと栄養があるもの、食べていますように。
 風邪なんかひいてませんように。
 ただ、元気でいてくれてますように。
                七月七日。蘭』

一枚の短冊にびっしりと書いてある。
七月七日。
それは確かに今日の日付なのだが、これは一年前の今日。
阿笠博士の家で飾られることのなかった短冊だ。

俺は頭から冷水を浴びさせられたような気持ちになった。
目が覚めた。
完全に。
俺は・・・バカだったんだ。
あの時俺は蘭を願いが見えていなかった。
自分の思いに囚われていた。
蘭が、自分と逢いたいと願うと信じて疑わなかった。
俺が早く帰ってきますように。
・・・・蘭は、そんなこと一言も望んでなんかいなかったのに。

やられた。
完全に・・・俺の負け。
何を自惚れていたんだろう?
何を勘違いしていたんだろう?
灰原にさえ、その願いは気付かれていたのに。
見えてなかったのは、俺一人だったんだ・・・・


「・・新一〜?」
ガチャリと扉が開く音。
俺はぼんやりとそちらを見た。
エプロン姿の蘭が、嬉しそうに俺を見つけた。
「何してるの?
もうご飯出来たよ。お腹空いたでしょう?」
にこにこと機嫌良さそうに微笑んでいる蘭に、俺はゆっくりと
歩みよる。
そうして腕を広げて、すっぽりと収まる身体を抱きしめる。
カレーの匂い。
それだけじゃなく、優しい匂いがする。
「・・新一?どうしたの??」
「・・・・」
今なら・・・今なら蘭はなんて答える?
それが知りたかった。
同じかどうか、確認したかった。
子供みたいだと自分でも思う。
それでも・・・
「・・なんて書いた?」
「えっ?」
「短冊。なんて書いたんだ?」
「・・・・ナイショv」
「・・・じゃあ見てくる。」
蘭を抱く腕を離して俺はもう一度窓際に向かう。
その俺の腕を慌てて抱きとめて、蘭は言った。
「見なくてもいいじゃない。ダメダメ〜〜!」
「なんでだよ?」
「恥ずかしいじゃない・・」
「・・・・でも知りたい。」
「・・・新一はなんて書いたの?」
拗ねた瞳で俺を可愛らしく見上げてきて、蘭は聞いてくる。
少しだけ我慢が出来なくて、ちゅっと口付けた。
「ん!」
真っ赤になって蘭が俺を軽く睨む。
しょうがねぇだろ、したかったんだから。
「俺は後で書くんだ。」
「・・・んじゃ、屈んで?」
強請られるままに俺は屈んで耳を傾けた。
そこに蘭の顔が近付く。
ふうっと息が触れて、俺は目を閉じた。
「あのね・・・もう・・・・」
「・・・・」

俺は姿勢を元に戻すと、自分でも嫌な笑い方をした。
蘭が恥ずかしそうに、でも嬉しそうに俺を見上げる。

そうしてもう一度キスをする。

願いは叶う。
簡単に。
お前が望んで。
それが同じで。

だったら、ことは簡単だろう?
わざわざ星の川に願いを託すことはない。
俺の努力次第。
そしてそれは難しくないよ?

『もう、離れないでいられますように』

蘭が望んで。
俺もそれを思って。
願いが一緒なら、もうそれは
願い事じゃないだろう――――――?









HAPPY END






2001/07/06

Written by きらり

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