HAPPY BIRTHDAY TO YOU











☆ONE☆


頭の上で携帯の着信音が鳴っている。
このメロディは・・蘭だ・・。
俺は鈍い頭でそれを布団の中に持ってきた。
・・・メールか・・今、一体何時だ?
・・零時を過ぎてる。
そっか・・この間事件で読み途中のままになってた小説を読んで、
そのまま寝ちまったのか・・・。
俺は布団の中から起き出して、メールを読んでみた。

『HAPPY BIRTHDAY☆SHINICHI
 一番に伝えたくてメールを送ります。
 実はね、プレゼントを新一の家の中に隠しました。
 見つけられるかな?ヒントは“約束の木”。
 ちょっと簡単すぎたかな?
 ・・・今年は、新一に一番あげたいものを
 プレゼントに選びました。喜んでくれると、いいな・・・。

 蘭より×××』

「・・・・アイツ・・」
俺は思わず一人で笑っていた。
そうだ、今日はもう4日だ。
俺の誕生日じゃねぇか。
すっかり忘れてた。
それを・・
このメールが思い出させる。
そんなこと、どうでもいいのに。
蘭のくれる言葉が嬉しい。
自分でも単純に出来てることは知ってる。
アイツに関してだけは、俺はダメだ。
なにより感情が抑えられない。
アイツの可愛らしい全てに、俺は笑みが零れた。
一番あげたいもの・・・?
笑みが消えて、思わず考え込んでしまう。
蘭が俺にあげたいものってなんだ?
今までだって、いろんなものもらった。
どれも一番嬉しくて、俺は考えてしまう。
今までくれたもんは一番じゃなかったのか?
それ以上のものってなんだろう?
「・・・・」
気になって仕方ないが、いくら考えても俺には浮かばない。
ヒントは至極簡単で、すぐに分かる。


「ねぇ、新一・・・嘘つかない?」
「俺が蘭に嘘つくわけねぇだろ?
ずっと・・好きだぜ?その・・本当に・・」
ガキの俺は真っ赤になって、その言葉を言った。
幼い瞳が恥ずかしそうに俺を見上げてる。
それが本当に可愛くて、可愛くて。
俺は胸がいっぱいになった。
6才の蘭。
今だってこんなに可愛いのに、大きくなったらどうなってしまうんだろう?
これ以上可愛くなっちまうのか?
大人になったら、それこそもっと可愛く??
想像つかねぇ!!
今だって蘭に好意を寄せてる奴等はいっぱいいて、
そいつ等を蹴落とすために俺は毎日攻防苦戦なのだ。
それでも負けるわけにはいかなかった。
だってずっと決めてた。
蘭は絶対誰にも渡したくない。
友達でもなんでもだ。
こんな感情、自分でもなんていうのかさっぱり分からない。
だけど。
だから、約束だけ欲しかった。
ずっと俺と一緒にいてくれるって。
俺を好きでいてくれるって。
ずっと約束して欲しい。
ずっとその約束を破らないって。
だから父さんに聞いたんだ。
ずっと蘭と一緒にいるためにはどうしたらいいんだ?って。
そしたら父さんは笑って言った。
『それはな、結婚するのが一番だな。
ま、今のお前達には無理だから、その約束を交わしておけばいいんじゃないか?』
『約束?そっか、そうだな・・』
『それを、婚約っていうんだぞ?』
『婚約?結婚の約束だから、婚約かぁ・・うん、分かった!
サンキュ。・・・父さんたちも婚約したのか?』
『・・・・父さん達はな・・、さっさと結婚してしまったからしなかったよ。
何事も最初と段取りが大事だ。さっさと物事は決めてしまいなさい。』
『おお、分かったぜ!』
『・・・・約束だけじゃダメだぞ?婚約しても結婚しても、その先が肝心なんだ。
いつでもそれを忘れちゃダメだ。
いつも愛しておけ。』
『・・・ああ?』
あいする?
あいするってなんだ??
うーん・・ま、いいか。それより蘭に・・・・
俺は懸命に駆けて家を出ると、丁度遊びに来た蘭と玄関で鉢合わせした。
「新一っ?どこか出かけるの?ご用事あるの?」
少し残念そうに瞳が伏せられる。
心配そうに曇ったその顔を見て、俺は慌てて蘭を抱きしめた。
「良かった、今からおめぇに逢いに行こうと思ってたんだ。
大事な話があるから・・」
「そ、そうなの?」
驚いたように蘭が笑った。
少し恥ずかしそうに俺を見つめる。
ああ・・本当にこいつは可愛い・・・。
俺は自分の部屋に蘭の手を引っ張って連れて来た。
「蘭ちゃんいらっしゃいv今日は肌寒いからホットミルクにしたのよ。
ねぇ、あとで一緒に遊ばない?
さっきね、掃除してたら子供の頃の服が出てきたのよぉ〜〜v
蘭ちゃんにきっと似合うから・・」
「今は俺と遊んでんだ!母さんは出てってくれよなぁ!」
ホットミルクとクッキーをテーブルに置いて、母さんは蘭の長い髪をいじって遊び始める。
母さんはいつも俺と蘭が遊んでるのを邪魔するんだ。
着せ替えやらなにやら蘭にさせて・・そりゃ蘭は何着ても可愛いけどよぉ〜、
今日は大事なことがあるんだ。絶対に邪魔させねぇぞ。
「なによぉ〜、せっかく蘭ちゃんと遊ぼうと思ったのに〜。
新ちゃんは本当にヤキモチ焼きやさんね。余裕がない男はみっともないのよぉ〜!」
「いいから、今日は邪魔しないでくれよなっ!」
子供みたいにほっぺたを膨らませて、母さんは蘭を抱きしめてしまう。
ったく、蘭にベタベタしやがってぇ!いくら母さんでも・・ずるい。そんなの・・・
「有希子、ちょっといいかい?」
「あら、あなたどうしたの?原稿進まないのぉ〜?」
開いてる扉を軽くノックして、父さんが入ってきた。
なんなんだよぉ!全く・・・
「今日はもうキリがいいところまで済んだんだよ。
もし暇があったら、一緒に付き合ってくれないかな?
気分転換がしたいんでね。」
父さんは軽くウインクして、母さんに微笑みかける。
一瞬だけその視線が俺に向かった。
そっか・・父さん・・・
「・・・しょうがないわねぇ、それじゃあ一緒に行ってあげるv
どこに行こうか?二人で出かけるなんて久しぶりだものねv」
なんだかんだ言って、嬉しそうに笑うんだよな母さん・・・
父さんに肩を抱かれて、母さんは出て行ってしまう。
少しだけ父さんがこちらを振り返って、ウインクをした。
俺も手を振る。
サンキュ。
そうして、やっと俺は座ったままの蘭を見つめた。
「?」
ずっとこちらの様子を見ていた蘭が、俺と目が合ってにっこりと笑う。
・・・本当に可愛い・・・恥ずかしくて、俺は顔を背けたくなってしまった。
最近、そうなんだ。
可愛くて、蘭が好きで。
見ていたのに、すごく恥ずかしくて。
思わず見てない素振りをしてしまったり、言葉も上手く思ってることが言えなかったりする。
どうかしちまったのかな?
それでも・・・どうしても約束が欲しくて。
俺は蘭の前に座り込んだ。
そうして頭を下げて、俺は言った。
「蘭、俺と婚約してくださいっ!!」
「・・・・??ど、どうしたの新一?
頭上げてよぉ〜〜。ねぇ、新一ぃ??」
驚いた蘭が同じように頭を低くして俺を見つめた。
俺は少しだけ頭を上げて、すぐ傍にあった顔にドキリとする。
不思議そうにこちらを伺ってる蘭に、俺は言った。
「・・・婚約って知らない?」
「うん、知らない。」
頭を上げて、蘭と笑って。
そうして俺はその説明を始めた。


「・・今思うと、ガキの頃の方がよっぱどはっきり蘭に言ってたぜ、
俺・・・」
自嘲して俺は部屋を出た。
廊下を歩いて、階段の脇の観葉植物に近付いた。
昔からある、このベンジャミンの木の横に、座ったテディベアがいる。
腕にピンクの封筒を抱いていた。
いつのまに・・・気付かなかったな。
笑みを浮かべて俺はそれを取った。







☆TWO☆



中には一枚のカードが入っている。
俺はそれを取って、広げて読んだ。

『さすが名探偵さまv
 覚えててくれたの?
 でもね、プレゼントはここじゃありません。
 もうちょっと考えてねv
 次のヒントは“ミルクティー”
 
 新一にはやっぱり簡単だったかなぁ?』


「・・・・・」
まだあるのかよ。
俺はがっくりと肩を落としてしまった。
蘭が来たのは昨日だ。
昨日は俺は昼寝ばかりしてたり、小説を読んだりしてぼーっとしてた。
蘭は忙しそうに掃除したり、洗濯をしてたりしたっけ。
いつのまに、こんなカードを隠してたりしてたんだろう?
それが可笑しくて笑えた。
いつまでも無邪気な蘭が可愛くて仕方なかった。
そうして自分の邪まな感情が笑えた。
俺はいつからこうだったんだろう?
いつからこうなった?
あの頃はもっと真っ直ぐに蘭が好きだと思えた。
なんの戸惑いもなかった。
蘭の傍にいれることが誇らしかったし、この思いも今よりもっと純粋で
強いモノではなかったか?



「結婚の約束?」
「ああ。その・・蘭が嫌じゃなかったらなんだけど・・・
なあ、ダメか?蘭は俺と結婚したくねぇ?」
「・・・・・」
蘭の顔が今までにないくらい、真っ赤になっている。
まるで浮かされたみたいにぼーっと俺を見つめていた。
なんだか心配になってしまう。
ダメだって言われることなんか、考えてもなかった。
嫌なのかな?
蘭は俺と、結婚したくない?
一緒にいたくないのか?
それなら、どうしたらいいんだろう?
一緒にいたいのに、それは俺だけだった?
惨めだったけど、それより悲しかった。
どうしたら蘭と一緒にいれるんだろう?
ずっと、誰よりも近くで。
いつまでもお前を独り占め出来るんだろう?
ホンの短時間のはずなのに、頭の中でぐるぐると考えが渦を巻いた。
もしも。
もしも本当に。
蘭が俺といたくないなら。
俺はどうすれば一緒にいれる?
どうしたら、蘭の傍にいれる?
なにか、分でも分からないほど残酷な答えが、頭の中に不意に浮かんだ。
その答えに戸惑い、俺はびっくりした。
なんでそんなこと思いついたんだ?
俺は蘭を悲しませたくないから、一緒にいたいのに。
守りたいからいつでも傍にいたいのに。
それなのに今思いついた答えが、あんまり自分が思っていたものとかけ離れていて、
俺は自分で自分を問いただしていた。
俺は蘭と一緒にいたいだけだろう?
「・・・う?新一・・・ねぇ、嘘じゃない?」
「え?・・あ、嘘じゃない!!本当にだってば!」
真っ赤になった蘭の瞳が潤んで見える。
なんだか泣きそうな笑みに俺はドキッとした。
「そんな顔すんじゃねぇよ。お前のこと、守りたいのに・・」
「ねぇ、新一・・・嘘つかない?」
「俺が蘭に嘘つくわけねぇだろ?
ずっと・・好きだぜ?その・・本当に・・」
ガキの俺は真っ赤になって、その言葉を言った。
幼い瞳が恥ずかしそうに俺を見上げてる。
それが本当に可愛くて、可愛くて。
俺は胸がいっぱいになった。
「じゃあ、約束する。
私、新一と婚約するね!」
「マジかっ!?」
「うん・・・だって・・私、新一のこと大好きだよ?
ずっと新一といたいもん・・」
にっこりと蘭が嬉しそうに笑って言ってくれる。
俺は言葉が上手く浮かばなかった。
浮かんでもなんだか言葉にしたら、変な感じがしていいたいこと、何も言えなかった。
「サンキュー!んじゃ、ここに書いてくれ。」
「?」
「せいやくしょってヤツだよ。
約束を破りませんって互いに書いて、閉まっておくんだ。」
俺は一番上等な紙とボールペンを持ってきた。
「私赤いので、書くね。」
「じゃあ、俺黒で書く。」

『私、もうり蘭は新一とけっこんすることを
やくそくします。』
『工藤新一は毛利蘭とけっこんすることを約そくします。
ぜったいにほかの人にわたしません。』

「・・・・」
互いに見つめ合う。
なんだか気恥ずかしくて可笑しかった。
蘭は笑って嬉しそうにそれを見つめる。
俺はなんだか我慢できなくて、そっとその頬にキスした。
「?」
一瞬なにか分からないように、蘭は首を傾げる。
そうしてまた真っ赤になって、俯いてしまった。
可愛くてしょうがなかった。
なんだかそんな蘭がとても大切なモノに思えて。
絶対に誰にも渡したくないと思った。
絶対にこの手で守る。
嘘はつかない。
俺は蘭が好きだから・・・・
それを缶にしまってしっかりと蓋をした。
「どこに閉まっておこうか?絶対に忘れないとこにしないと・・」
蘭が首を傾げて俺を見上げてくる。
俺は暫く考えた。
結婚できるのはまだずっと先のことだ。
確か女の人が16才。
俺は18才にならなきゃダメなんだっけ?
それまで・・・数えてみる。
あと10年以上もあるのか・・・



「・・・・そのわりには・・」
たくさん嘘をついた。
アイツを誰よりも泣かせて、悲しませたのは。
他でもない、俺だ。
真っ暗な階段を下りた。
リビングには明かりがついたままで、その光が廊下に洩れて辺りを照らしていた。
キッチンへと向かう。
目に付いた冷蔵庫を開けてみる。
昨日作ったんだろう。
サラダやいろいろ入ってる。
閉めるとマグネットでメモが張られていた。
『お腹空いたら食べてください。
サラダ入ってます。タッパにシチュー入ってるから、チンして食べてねv』
「・・・・」
変わらない優しさが愛しかった。
蘭は何も変わらない。
何も変わらずに、俺を優しく愛してくれてる。
俺だけが変わった。
あの頃とは違う。
好きなのに、愛してるのに。
それなのに泣かせる。
待たせてる。
いつだって、アイツを一人にして。
ずっと傍にいると誓ったくせに。
簡単にアイツを置いて、俺は行ってしまうんだ。
やめられないんだ。
止められない、自分を。
探偵という道を選び歩いた時から。
もう後戻りは出来ないで、俺は歩き続けてる。
お前を危険に巻き込みたくてなくて、遠ざけて。
独りぼっちにして守ったつもりでいる。
滑稽な愛。
俺だけが違う。
俺だけが変わってしまった。
あの頃蘭が好きだと言ってくれた俺は。
もうどこにもいないだろう?
愛しさがこみ上げる。
その思いを抑えて、俺はカードを見た。
凶暴にお前を愛したら。
抑えぬままにお前を抱いたら。
お前はきっと怖くて泣き出してしまうだろうから。
だから・・・。
「ミルクティーか・・」
アイツはコーヒーより紅茶が好きだ。
ホットのミルクティー。
ミルクも砂糖もたっぷり入れて。
熱そうにふうっと息を吹いて。
そうして一口飲むと、酷く幸せそうに笑みを漏らす。
本当に美味しそうに飲むんだ。
それを見てると俺まで温かい気持ちになって・・・。
俺は蘭とのそんな時間がなにより・・・大事なモノになっていた。
ヒントはミルクティーか・・・。
まず最初に見たのは紅茶の缶だ。
蘭が美味しいと気に入った以来、お袋が毎月送ってくるイギリスの
小さな喫茶店のオリジナルブレンドの缶・・。
この中には・・さすがにないな。
裏を返したり、蓋の裏を見たりしたが何も見つからない。
ミルク・・・冷蔵庫を開けて牛乳を手に取った。
底を見ても何も書いてないし、あとはフレッシュミルクか?
そのケースの中を覗いても、何も入ってなかった。
だとすると後はカップしかないな。
いつも使ってるマグカップを見に行く。
食器棚はもちろん、マグカップの中も何もなかった。
「・・・・・」
ストレート過ぎたか?
蘭の考えに合わせたつもりだったが、もっと見方を変える必要があるな。
「・・・・・」
ミルクティー。
紅茶にミルクにカップに、スプーン・・砂糖にもなにもなかったしなぁ。
MILKTEA・・・そこまで捻ってねぇだろうなぁ・・・。
だとしたら?
ミルクティーを入れたら?
その次はどうする?
もちろん飲む。
誰が?
蘭が。
誰と?
もちろん俺と。
それじゃあどこで?
それは・・・。
リビングに向かう。
いつも蘭と昼間過ごすのはここだ。
自分の部屋では滅多に昼間は過ごさない。
さすがにベッドを目の前に、何もしないってのは俺も我慢が足りなくてな。
そりゃ、どこにいたってそういう気にならないっていったら、嘘だけど・・・・。
二人でお茶をするのはたいていここだった。
このソファに座って、俺はこっちに寝転んで。
そうして昼寝してたり、本を読んでて。
そしてアイツがコーヒーとミルクティーを入れてくるんだ。
お茶にしようよって。
優しく笑って・・・。
俺は蘭の膝を枕にして蘭はソファと背中の間にクッションを挟んで、
腰が痛くないようにしてたっけ・・・。
クッションを取り上げる。
感触があった。
思わず笑みを浮かべてファスナーをあけた。
「3枚目か・・・」
またピンクの封筒だ。
中にはカードが一枚.。

『やっぱり簡単だった?
 それじゃあ最後はとびっきり難しくしちゃう!!
 ヒントは“プレゼント”
 
 私の新一へのプレゼントまでもう少しです。
 頑張ってね☆
 降参してもいいのよ?
 今日の朝、一番に新一のとこへ行くから。
 そうしたら、教えてあげる×××』



キスの意味も知らなかった俺はもういない。
蘭のそれとは違う意味で、俺は蘭が欲しい。
約束も今はもうなかったようなもので。
蘭も俺も、何も言わないでいた。
どうして?
ずっと一緒だったから。
だからそんな約束、今更だった。
だから一緒にいれなくなった時。
その意味を思い知った。
俺は蘭が好きだった。
改めるまでもなく。
ずっとずっとそれしかなかったのだ。
愚かに、思ってたよりももっと残酷に。
あの頃から俺は蘭を好きだった。
それに気付いた今は。
もっと貪欲に。
もっと残酷に。
蘭を愛している。


“プレゼント”
その意味を考える。
今まで蘭がくれた物か?
俺は思い出せるだけ思い出してみる。
なるべく新しい物から順に・・・。
バレンタインに貰ったお揃いのマグカップとスプーンのセット。
クリスマスに貰ったセーターとマフラー、手袋のセット。
蘭が可愛くて一目惚れしたと言って買ってきた、サボテンの鉢。
暇な時間に作ったと言っていたブックカバーに、クッションに座布団。
それにウサギのぬいぐるみ・・・。
「・・・・参った」
部屋中探し回った。
回ったが、この家には蘭がくれた物で溢れすぎてる。
「・・・・・」
俺が元の身体に戻って、まだ1年だ。
やっと想いを全てを蘭に告げて、それを受け入れてもらえて。
蘭が俺の家へ毎日のように来てくれるようになって。
まだ1年しか経っていない。
それなのに、この場所に蘭の居場所はないくらい。
隅々にまで蘭の残り香がある。
その跡がある。
それが嫌になるくらい幸せで。
俺は笑える。
自分でも気付かれないくらい、俺の居場所には蘭が在った。
最初から。
そう、あの頃からずっと蘭は俺の中にいたんだ。
約束なんかしなくても。
俺は蘭を閉じ込めてた。
ひとりよがりな感情で、蘭を俺に閉じ込めてたのだ。
それを、蘭は知っていた?
否か。
全てを最初から許してくれてたのだ。
泣かせても。
待たせても。
ずっと。
今も・・・・

本当に分かってないのは、俺だけなんだ・・・・。















「・・・・」
俺は自分の部屋に戻った。
淹れてきたコーヒーを一口含む。
“プレゼント”
俺が蘭にもらった物は全て調べたつもりだ。
時間を見て驚いた。
もう3時を過ぎてる。
こんなに時間かかってたのか?
眠れねぇ・・気になるのも確かだが。
目が嫌に冴えてる。
こういうのは嫌だ。
余計なことばかり考えてしまう。
考えたくもねぇことが、いくらでも溢れてくる。
椅子に凭れて何気に机の上を見た。
二人の写真・・・。
トロピカルランドの時のだ。
蘭がくれたフォトフレーム。
もしかしたら・・・。
写真しか入ってない。
「ん?」
初めてその文字に気付いた。

『新一が戻って、初めてのトロピカルランド。
 もうずっと一緒にいれますように・・・』

蘭が入れてくれた写真だった。
ずっと替えるつもりがなかったから、出したことがなかった。
息苦しさが俺を襲う。
何より純粋に願ってくれていたのは、蘭だ。
いつも。
どんな時も。
俺を信じてくれた。
なにも保証できない俺を。
なにも約束できなかった俺を。
いつも。
どんな時も。
待っていてくれてた。
その涙を隠したまま、ずっと俺の好きな笑顔を見せたまま。
フレームを下の場所に戻す俺の手が、それの蓋を開けた。
流れてくるのは静かなメロディ。
初めて俺が蘭に贈った物だ。
「・・・・」
そう来るとは思わなかった。
俺が、蘭に贈ったプレゼントの中・・・。
もう何度も手にしたピンクの封筒が入っている。
俺は心を静めた。
余計なことばかり考えてしまう自分を押し付けた。
そうしてその中のカードを開ける。
「・・・・・・」


『お誕生日おめでとう、新一。
 今年の誕生日を一緒に過ごせること、すごく嬉しい。
 これからもずっと一緒にいたいね。
 新一が事件が入っちゃうこともあるかもしれないけど、
 その時はずっと待ってるからね?
 一緒に過ごせなくても、一緒にいるよ。
 
 最後に。
 私からのプレゼントには気付きましたか?
 難しかった(笑)?
 見つけられなくてもいいです。
 

 P,S,
 大好きだよ、新一。
 今夜は大好きなビーフシチューとハンバーグです。

                    蘭より』


ベッドに仰向けのまま倒れ込む。
結局、俺は蘭からのプレゼントを見つけてねぇ・・・。
前のカードにカードはこれで最後だって書いてあった。
一気に疲れと睡魔が襲ってくる。
だけど。
寝てる場合じゃねぇ!!
絶対に見つけてやる!
蘭が俺に一番あげたかった物だろう?
そんなの見つかなかったじゃすまねぇよっ!!
俺はベッドから飛び起きて、部屋の中をかき回した。
明日の朝。
蘭が来るまでに必ず見つけ出してやる!!!



材料は昨日買いこんでおいたし。
ケーキは特別に予約した。
新一のプレゼントも用意したし。
「・・・結局見つけられたかな?」
そう呟いて、私は家を見上げた。
時間は朝9時。
さすがにもう起きてるかな?
両手が荷物で塞がってるのでチャイムを押してみる。
「?」
念のためもう一度。
「?」
寝てるのかな?
しょうがないので上着のポケットから鍵を取り出して、開けた。
「きゃああっ!?」
いきなり覆い被さるように目の前に立ちはかだる人影。
それに抱きしめられると、私は落とした荷物を見下ろしてその名前を口にした。
「・・・新一?なにするのよぉ?
落ちちゃったじゃない?」
「・・・・・・蘭」
新一がくぐもった声で私の名前を呼んだ。
どうしたんだろう?
パジャマ姿じゃないし、起きてたのかな?
「どうした・・」
最後まで言えなかった。
「どこに隠したんだよっ!?」
「はい?」
思わず聞き返しちゃう。
そうして思わず笑ってしまった。
だって、もしかして・・・
新一、ずっと探してたの?
見つからなくて・・・それで。
それで、不機嫌なの?
「・・・カードは全部で3枚なんだろう?
プレゼントってどこだよっ??
最後の封筒にはカードしか入ってねぇぞ!?」
「・・・・・・」
新一は変わらないね。
ずっと、あの頃のまま。
時々酷く大人びた顔を見せるのに。
探偵のあなたは時々、とても遠い場所にいるのに・・・
今こうして私を抱きしめるあなたは、あの頃の強い瞳を閉じ込めたまま、
無邪気に笑ってくれるのね。
それこそが、私の・・・・
でも、新一はプレゼントに気付かなかったのか。
私は新一の腕の中から逃れた。
多分無理だと分かってたけどね。
少しだけ笑っちゃう。
「はい、これもう一つのプレゼント。
これで我慢してねv」
私は落としたそれを拾って新一の腕の中に押し込んだ。
それを受け取って、呆然とそれを見てる新一を後に。
私は他の荷物を拾って、家の中にすたすたと入って行った。
「ちょ、待てよ!これがプレゼントなのか?!
昨夜のメールのは違うんだろ?
どこに隠したんだよぉ!?」
新一の腕の中のプレゼントは春物のシャツと夏用のパジャマ。
熱がりだからすぐにパジャマ脱ぐんだもん。
今から夏用の着てれば、しっかり布団から出ないでしょう?
私は笑みを浮かべたまま、追いかけてきて必死に聞いて来る新一をわざと無視した。
ごめんね。
だって。
本当は一番あげたい物は秘密にしておきたいの。
恥ずかしいし。
それにもうとっくにあげてたから。
だから、今更それを知らなくてもいいでしょう?
新一が気付くまで、黙っていよう。
このまま隠してても、きっと平気だから・・・。
「なあ、蘭頼む!この通り!!
どうか、教えてくれ!そうだ、せめてもう一つだけヒントを・・」
「・・・・お誕生日おめでとう。
まだ直接言ってなかったもんね?」
口付けて笑って見せる。
新一はそれ以上何も言わなかった。
悔しそうに、でもどこか嬉しそうに私を睨みつける。
「それならいい。
俺が一番欲しい物もらうから。」
「?」
不敵に笑う新一になんか嫌な予感がした。
逃げようとキッチンに向かった時は、もう遅い。
「誕生日なんだから、いいだろう?」
「ちょ、離してよぉ〜〜、これからお料理作るんだから〜。
ね?新一もお腹空いてるでしょう?」
片腕で簡単に抱き上げらて私は目を丸くした。
そうしてひょいっと両腕に抱きしめられた。
「・・・・新一ぃ〜・・」
「ダメだ。もう貰うってずっと決めてたからな。
メシより何より、お前が先だ。」
ペロリとまるで味見するみたいに、頬を舐められる。
「・・・・ねぇ、お願いだから・・・下ろして?」
「無理だって。」
あっさりと酷いことを言ってくれる。
私は心底後悔した。
あんなことするんじゃなかったなぁ。
少し困った顔が見たかっただけなのに。
それなのに。
一番好きなあの時の声を、聞くことになりそうなんだもん・・・。
恥ずかしくてぎゅうっと、新一の首に手を回して抱きつく。
諦めてその肩に顔を埋めた。
「いつも、愛してるだろう?」
「・・・バカ・・」












2001/05/04


HAPPY BIRTHDAY TO YOU

I LOVE ONLY YOU

DAY AND NIGHT・・・

ALL THE TIME・・・


 




☆・・・・もう少し先の続きがあります。
     そちらもお楽しみください☆










「そんで?父さんはまだそのプレゼント、見つけられないの?」
「ああ、そうだ・・」
コナンは父を見上げる。
もう15になるというのに、その目はまだ幼い好奇心の固まりだ。
「それじゃあこの家のどこかに、まだ隠されてるのか?」
「そうだな・・蘭がまだ隠したままだったらな。」
少し気恥ずかしそうに新一は笑った。
当たり前だ。
ずっとナイショにしていたことだった。
新一がまだ見つけてない、隠されたままのプレゼントの話は。
なにせ日本でも有名な探偵工藤新一が今だ解けない迷宮入りの事件はそれだけだ。
そしてもうあれから何十年も過ぎている。
最初は何年も必死になって探していたものだ。
けれど。
もう今はそれはそのままで、いいかと思う。
そう思えたからコナンに話したのだ。
「そっか〜〜、父さんでもまだ見つけてないプレゼントか・・・
母さんもやるなぁ〜・・」
その目が自分と全く同じ色で輝いている。
コナンの中の探偵の血を、どこかで感じた。
もう以前からそれはうすうす感じていたことだったが。
「・・・よしっ!僕が見つけてみせるよ!?
絶対に今日中に探し出すさっ!」
「それは頼もしいな。俺が十年以上も解けなかった謎だぜ?
そう簡単に見つけ出せるとは、思わないけどな。」
新一はふふんと鼻を鳴らす。
そんなこと自慢出来ることじゃないが、それでもなんだかおかしな気分だ。
まさかあの見つけられないプレゼントを。
自分の息子が探すことになることになんて・・・。
遠いあの日を見つめるように、新一は笑うその目を細めた。
「父さん以上に、僕の方が冴えてるところを見せ付けてやるよ?」
「ま、せいぜい頑張るんだな。」
「・・・・・・」
分厚い本がぱたりと静かに閉じられた。
その音にコナンはそちらを向く。
妹の新(アラタ)だ。
少し大人びた瞳で、新は笑って二人を見上げた。
「兄さんもお父さんも、真剣にそれ言ってるの?」
今までずっとこちらの話を聞いてる素振りも見せなかった、
新がゆっくりと立ち上がりこちらに歩み寄る。
読み終えたその本をしまいながら、もう一度二人を見つめて綺麗に微笑んだ。
「二人に見つかるわけないじゃない。
お父さんはもうそのプレゼントを手にしてるわ。」
「?!」
コナンはともかく、新一までもが思わず身を乗り出す。
そうして新を見下ろした。
ヤケに真剣な瞳で、新を見下ろす。
「・・・それ本気で言ってるのか?」
「うん。」
「どうして分かるんだよっ!?今聞いてた話だけで、もう分かったのか?隠し場所??」
コナンは少し悔しそうに新に詰め寄った。
新ははぁーと大袈裟に溜め息を漏らして見せると、クスリと小さく笑った。
「本当に分からないの?
二人とも・・・本当に女心には疎いのね?」
「あのなぁ!新の方が年下だろう!?
じゃあ、どこだよ?教えてくれってば!!」
「・・・お父さんより、冴えてるんでしょう?
自分で探してみたら?多分、無理だろうけど。」
そう言って、スタスタと自分の部屋に戻っていく。
リビングを出るとクスクスと笑い声が洩れて聞こえてきた。
「あら?新はお茶飲まないのぉ?」
キッチンから声が響く。
「あとで頂くわ、お母さん。」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
残されたコナンと新一は顔を見合わせて、肩を竦めて見せた。
互いに全然意味が分からないでいた。
新一はソファに凭れなおして、小さく息を漏らした。
ったく、顔は蘭そっくりなのになんだあの性格は・・。
本当に誰に似たんだか・・・。
まさかそれが自分になどと、思いもせずに新一は溜め息をもう一つ漏らしていた。
「コナン、新一お茶入ったわよ?」
そこへ当の蘭が入ってきた。
トレイにコーヒーとミルクティーが注がれたカップが3つ並んでいる。
テーブルにそれぞれ置いて、蘭は新一の隣りに座った。
コーヒーを一口飲んで、新一は蘭を見つめる。
「なあに?」
「・・・・なあ、蘭もう時効だろう?
あの隠し場所、教えてくれ。」
「・・・・・」
一瞬なんのことか意味を図り知れなかった蘭は、思い当たると可笑しそうに笑った。
「・・やだ、新一ったらまだ気にしてたの〜??」
「悪かったな・・・この日が来るたびに俺は思い出すんだよ。
気になって仕方ねぇんだ・・」
不貞腐れた新一の顔が酷く幼く見えて、蘭はあの日を思い出した。
くすくす、笑いが止まらない。
本当に変わらなくて。
それが愛しくて。
蘭は微笑んだ。
とびっきり綺麗に。
未だに新一を赤くさせるほど。
それほど綺麗に笑って見せる。
「お誕生日おめでとう、新一。
また今夜、探してね?」
「・・・・・くそっ」
悔しそうに新一は蘭を睨みつけ、そうして酷く嬉しそうに笑う。
そうして口付けた。
コナンは黙ったまま、相変わらず仲の良い二人を放って部屋に戻る。
ったく、いつまで経っても二人とも相変わらずだ・・・。
我が子にそんなふうに思われてるとは、夢にも思わずに二人は幸せそうに笑っていた。
いつもの休日。
いつものお茶の時間。
そして蘭の膝枕。

何も変わりはしなかった。
全ては流れて変わった。
それでも変わらないモノに抱かれて。
二人は微笑んだ。








『お誕生日おめでとう、新一。
 今年の誕生日を一緒に過ごせること、すごく嬉しい。
 これからもずっと一緒にいたいね。
 新一が事件が入っちゃうこともあるかもしれないけど、
 その時はずっと待ってるからね?
 一緒に過ごせなくても、一緒にいるよ。



 最後に。
 私からのプレゼントには気付きましたか?
 難しいかった?
 見つけられなくてもいいです。    』





見つからなくてもいいです。

一緒に過ごせなくても、一緒にいるよ。

これからもずっと一緒にいたいね。

これからも。

ずっと。

一緒に・・・・・














THE END




2001/05/04


Written by きらり

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