終わらない夜




始まりはいつから?
終わりはどこまで?
何も司れないこの天秤は何を待っているのだろう。
天使はその白き翼を誇りに背負い。
神に愛されし、その精神を信じ。
愛ゆえに赦しを。
与えたもう。
その罪を代わりに背負い。
それさえも愛していく。
天上は愛で溢れていた。
神は満足している。
天使もそれを愛していた。
だから。
誰も知らなかった。
誰も知る必要はなかった。
意志を貫く強さも。
その美しさも。
知る者はいない。

天使を堕とすもの。

それは欲情。

神さえも背いて。

欲する渇き。

悪しき者。

それはいつも美しい。


天よりも。

その純白な翼よりも・・・・


見惚れる天使たちの罪、欲望ーーーーーーー




「お帰り、蘭姉ちゃん。」
「コナン君・・ただいま。」
にっこりと無邪気に笑う天使に。
コナンは見惚れた。
生まれた時から美しかった。
ずっとずっとその美しさのままで。
貴女は成長した。
その翼の白さのままに。
何も知らない汚れない瞳と魂が。
今もそのままに。
美しくあった。
「楽しかった?地上は・・」
「うん。最近夜もとても気持ち良い風が吹くのよ。
もうすぐ季節が変わるわ。
今度はコナン君も一緒に降りましょう?
・・まだ、お仕事終らないの?」
その後ろに付き人の天使が控えていることに、蘭は気付き少しだけ
顔を曇らせた。
最近コナンと一緒に眠る夜は少ない。
朝も昼も。
夜も。
神殿と執務室を行ったり来たりばかりだ。
私室では・・コナンの姿を見つけることが少なくなっていた。
それでも夜は、寝室に来てくれてるらしいのだが。
朝、蘭が目を覚ます前に、コナンの姿消えていた。
「・・・コナン君、あんまり無理しないでね?
たまには・・一緒に眠りたいわ。
いつかの話の続き聞かせて頂戴・・?」
「・・・蘭姉ちゃん・・分かった。今夜はすぐに帰るよ?
少しだけ、起きて待っていてくれる?」
「うん。」
不安そうに曇った瞳に綺麗な色が浮かぶ。
嬉しそうに微笑んで、蘭は頷いた。
「待ってるv約束ね?コナン君・・」
「誓うよ?蘭姉ちゃん・・・」
ふわりとコナンが舞い上がり、そうして蘭の瞼に唇を落とす。
瞳を閉じてそれを受ける蘭を見つめて。
コナンは微笑んだ。
彼女だけに向けられる極上の笑み。
蘭は瞳を閉じていて。
それを見ることは叶わないでいた。
何よりも優しい色。
全ての罪を許したもうその笑顔は。
誰でもない。
彼女だけの為に・・・。
「誓うよ。今夜はすぐに帰る・・・」
「いってらっしゃい。待ってる・・」
蘭は微笑んで、その姿を見送った。


コナンの宮殿は広く。
その奥の寝室は。
蘭の他には誰も、入ることは禁じられた空間だった。
大きな寝台に身を投げて。
蘭は懐に隠した小瓶を探った。
明かりに透かして、その輝く丸い結晶を見つめる。
新一が、自分の為に作り出してくれた産物。
ミルクキャンディーがいくつも、その瓶には詰まっていた。
「綺麗・・・」
その輝きに目を細めて。
胸に小瓶を掻き抱き。
蘭はその名を誰にも聞こえぬように呟いた。
「・・・・」
頬が染まる。
自分でも分かる。
鼓動が早まって、甘い息苦しさに眩暈を覚える。
愛してる、想いは強く。
吐き出してしまいたいほど、重い・・。
『他の誰にもその言葉を聞かせないでくれ。
俺は・・お前の物は何一つ、誰にも見せたくねぇんだ。
俺への想いなら尚更に。
俺だけの中に、閉じ込めてくれ・・・』
思い出す熱い吐息と共に心を支配した彼の言葉。
誰かに支配されることが、こんなにも狂おしくいとおしい。
蘭は知らなかった。
愛も、罪も、神も・・・
蘭には何も教えなかった。
自由だった。
でもこの想いは自由ではなくなってしまった。
彼だけに向かうモノ。
それは・・なに?
これが愛?
これが罪・・・・
自由でないのは苦しい。
でもこの苦しみさえ、甘いこれは・・・・
なんて恐ろしい支配なのだろう?
『これをお前に・・・
いつ何処にいても。
お前を想うよ。
きっと守る。
俺が全てに。
背いても・・・・』
「・・・・」
身を起こして、蘭はそれを引き出しに隠した。
特別な言葉をそこに封じて、コナンにも見つからないように隠しみの
言葉を与えた。
それも、本当は意味のないことだと知ってる。
コナンには全てが分かっていた。
隠す方がおかしい。
それでも、隠さずにはいられない。
なんだろう?この不安は・・・
コナンは決して蘭を咎めたりしない。
それを知ってるはずなのに・・・
蘭は自分の中の、理解不能な感情に戸惑う。
帰ってきたら・・・
コナン君が帰ってきたら、全て話してしまおう。
コナン君に隠し事は出来ない。
秘密は重くて、苦しい。
コナンくんは・・怒らないもの。
私を・・・導いてくれるでしょう?
その小さな手で。
抱きしめてくれるでしょう?
蘭は微笑みを浮かべて、寝室の扉を開けた。
そこは泉になっている。
温かなお湯。
温かくて、冷たくて。
常に同じ温度を保っている。
着ていた物を全て脱いで。
蘭は泉へ足を運んだ。
もうすぐ・・この気持ちが軽くなる。
「・・・いち・・・」
想いをコナンに告白しても。
あなたは怒らないでしょう?
優しく笑って、抱きしめてくれる。
それを知ってる。
だから微笑んでいられる。
出逢ってからまだ一年も経たないのに。
私はあなたの愛を。
何よりも信じていられるの。
どうしてだろう?
あなたをいつも。
すぐ傍で感じる。
この身体に残ってる。
あなたの力。
心地よい感触もすべて。
自分でその身を抱きしめた。
いつもあなたの羽根に。
抱き包まれていると、感じるのよ?


少しだけ遅れた。
けれど全速でコナンは宮殿へと戻った。
付き人の天使たち全てに、就寝の命を与え。
コナンは寝室へと足を急がせた。
「ただいま、蘭姉ちゃん!・・・」
微笑が浮かぶ。
暖かな安らぎに満ち溢れて。
コナンの心はそれに占められた。
扉を閉めて。
その封印の力を強めておく。
誰も入ってこれないように。
誰も近寄ることすら出来ないように。
開いたままの窓に気付き。
それをそうっと閉めて、コナンは言葉を呟いた。
そうして着ていた服を着替える。
私服に替えると、コナンは寝台に足音を立てぬように近付いた。
安らかな眠りを貪って。
蘭は瞳を伏せていた。
たった今まで起きていたのか。
彼女の手には誓書が握られている。
コナンはそれを覗き片付けようとし、気付いた。
腕の中に大事そうに閉じ込めた小瓶。
その中にはキャンディーが入っている。
「・・・こ、れは・・」
分かっていた。
命を喰らったわけではない。
天使はなにものの命も奪うことは許されなかった。
奪ったその瞬間に。
翼が汚れる。
その罪の烙印を刻み込まれ。
天に昇れなくなるのだ。
それは産物。
人間が作り出したものではない。
魔力が感じられた。
本当に微量だが、それは甘い微香を隠せないでいる。
悪しきもの。
それはいつも美しい。
惹きつける魅力に溢れている。
何も知らない天使さえも。
充分に魅了してやまない。
「・・コ、ナン君・・・?」
うっすらとその瞼が開いて、その姿を探し迷った。
「ここだよ。ごめんね、遅くなっちゃったね?」
「・・・コナン君・・やだなぁ、起きて待ってようと思ってたのに。」
乱れた長い髪を掻き上げて、蘭はぼんやりとでも嬉しそうにコナンを見下ろした。
「いいよ、眠って・・・一緒にいる。
今夜はずっと・・これからも、ずっとね?」
「うん・・あのね、コナン君・・・」
予感。
確信と言った方が良かった。
何を言われるか、分かった。
その瞳を見て。
その唇が、なんだか迷うように開きかけて。
コナンは視線を外してしまった。
「聞いて欲しいことが、あるの・・・」
「うん・・。なあに?蘭姉ちゃん・・・」
言葉が重い。
口を開くのが、こんなに辛いことはなかった。
本当は聞きたくなかった。
聞かなくても知っていた。
知ってたけど、そうじゃないと言って欲しかった。
一人よがりの感情だと知っていても。
「新一を・・・知っているでしょう?」
「・・・ああ。知っている。もう何百年も前から・・ずっとずっと、忘れてない。」
「私・・・・私ね・・」
そうだ。
あの時も彼女はそう切り出した。
美しい瞳がその熱に浮かされて。
潤んでコナンを映した。
頬を紅潮させ、唇が甘くあの名前を紡ぐ。
あの時も、そうだった・・・
そして、この瞬間も・・・・
「彼が好きなの。」
「・・・」
知ってたよ?
最初見た時から分かってた。
君があの男に惹かれる訳。
あの男に囚われた理由。
けれど。
どうすることも出来なかった。
君をどうにかするなんて。
神にだって出来やしないんだ・・・
それは意志。
誰かの制止も意味は成さない。
強い意志だ。
「・・・彼が天使じゃないと知ってても・・・彼が、悪魔でも
それでも・・・好きなの。」
「・・・・・」
ーーーーー神様。
あなたはこれを知っていた?
知っていらしたんでしょう?
今も。
そして、あの時も。
あなたはそれを知っていたんだ!
・・・・何故?
何故にあなたは・・・それを止めない?
神の意思を反する行為を。
認めながら、何故避けようとしない?
天界で何よりも美しい天使、聖女を。
何故自ら手放すのだ!?
何故・・・この手から奪われるのを、黙って見てなくてはいけないんだっ!?



「蘭姉ちゃん・・・顔を上げて・・。」
「・・・えっ?」
いつのまにか乞うように蘭は俯いてしまっていた。
無意識の行為。
なんて危ういんだろう。
どうして彼女は自分を何より美しく見せる術を無意識に。
無意識に知っているのだろう。
こんな姿で。
その瞳で見つめられて。
彼女を咎める奴がいるのなら、見てみたい・・・
そうさ、知ってる。
僕だって、彼女を戒めることなんか出来ない。
天界で一番美しい精神を持った聖女。
どうして美しいモノは、美しいモノに惹かれていくのだろう?
その醜さを見透かして。
奥に隠れた輝きを、真っ直ぐに見つめている。
あの男も。
あの人もそうだ。
そして君までも・・・・
「コナン君・・?」
「そんな顔しないで。誰よりも貴女が一番知ってるでしょう?
貴女の悲しみが、僕には一番辛いんだ・・・」
「私・・有罪よね?天使にクセに・・・悪魔を・・・その上・・・」
「・・・・」
優しくその唇を制した。
蘭は不思議そうに自分を見上げてくる。
微笑みを浮かべる。
安心させたくて、僕は笑った。
「此処でそれ以上口にしちゃいけない・・・
蘭姉ちゃん、何も怖がらないで・・僕は、僕だけは、絶対に貴女の味方だから。
貴女を守るよ?
貴女は何も罪を犯してなどいない。
誰かが貴女に罪を負わせても、そんなの僕が許さない。
貴女は汚れてない。
その白い翼のまま。
どこも綺麗なままだよ?」
「私・・・怖いの。」
瞳から一滴の涙が零れ落ちる。
それを隠そうとして、蘭はコナンに身を寄せた。
その身体を優しく抱きしめて。
二対の翼で抱き包んで。
コナンは微笑みを浮かべた。
「こんな気持ち・・生まれて初めてだったから・・・
誰に話したらいいのか、分からなくて・・怖くて。
幸せなの。
あの人と逢っていると嬉しくて、幸せででも・・離れたくなくて・・・
こんな我儘、私・・怖い・・・」
「・・・蘭姉ちゃん・・・」
コナンの胸板に頬を寄せて、蘭はうっとりと瞳を閉じた。
耳を澄まして、その心音を確かめる。
「・・・コナン君にこうされると、怖くなくなる。
安心するの・・・ずっとね、話すの怖かった。
彼のことを話して、もし・・・もしも・・・」
少しずつ安心したように言葉を吐き出す。
それが怖かった。
分かっているのに、それを蘭の口から聞くのは辛いなんて。
・・言わないで。
本当に辛いから。
貴女の口からそれを言われるのは・・・二度目の方が、
もっと辛いなんて・・・・
「もしもコナン君に嫌われたら・・・見捨てられたら、どうしようって・・・・・」
「・・・・に?」
今、なんと、言った?
「蘭姉ちゃん・・・今、な、んて・・・?」
「?」
きょとんと首を傾げ、瞳が瞬く。
僕は努めて平静を装った。
「・・・僕、に?
嫌われるのが・・怖かったの?」
「・・・うん・・・」
こくりと頷いて、蘭はそのまま顔を僕の胸に預けた。
信じられなかった。
信じられない思いで。
僕はその髪に触れて、優しく撫ぜた。
優しく、壊れ物を扱うよりも優しく。
彼女を愛してきた。
なのに。
今は力のままに抱きしめることが、我慢出来なかった。
「!?」
少しだけ身じろいで蘭が顔を上げようとする。
でもそれを許さなかった。
許せなかった。
こんな顔を見て欲しくなかった。
嬉しいのに。
なのに笑えない。
それ以上に悔しくて。
あの男が羨ましくて。
焦げそうな想いを閉じ込めて、蘭を抱きしめた。
愛してる。
どんなに君の罪が重くても。
君がその罪の愛から逃れないなら。
僕が逃してあげる。
もう何処へも飛んでいけないように。
もう誰にも、奪われないように。
だから、だからこの愛を、許してーーーーーーー!?




寝台から降りて、コナン君は私の手を引っ張った。
「?どこへ行くの・・?」
「地上。」
「・・・で、でもまだ夜明けよ?
朝は訪れてないのに、勝手に天界を降りたりしたら・・・」
どうしたの?
何処へ行くの?
なぜ地上に?
いくつも疑問が浮かぶ。
それでもコナン君は答えてくれない。
なんだろう?
怒ってるの?そうじゃない・・・
なんだろう?こんな彼を見たことがない・・。
「平気だよ?僕には自由許可が下りてる。
蘭姉ちゃん・・・一緒に来て?」
差し出される小さな手の平。
私はそれに自分の手を重ねた。
ずっとこの手に守られてた。
ずっと私を愛してくれていた。
まるで父親みたいに、神様みたいに・・・
私の方がずっと大きな身体で生まれたのに。
コナン君はいつだって甘やかして、愛してくれるんだもんね?
今だって、何を考えているのか分からないけど。
全部私のためなんでしょう?
今まで、そうじゃなかったこと。
一つもなかったもの・・・
知らず笑っていた。
愛されてたことを思い知る。
どうしてだろう?






手を引かれて真っ暗な空を一緒に降りた。
地上はとても近い。
けれど、神様の就寝のあとで地上に降りるのは。
生まれて初めての行為だった。
でも大丈夫。
守られてる。
当たり前みたいに。
ずっと。
生まれた瞬間から。
私はコナン君に守られてた。
今も、ずっと・・・
どうしてだろう?
そんなこと知っていたのに。
今更思い知る。
なんでだろう?
与えられる愛情を、素直に身体中で感じる。
解放されたみたいに、私の心は軽かった。
ずっと隠していたことを、コナン君に話せたから?
ううん、そうじゃない。
それだけじゃない。
「・・・・」
本当に突然、答えが光った。
まるで最初からそこにあったみたいに。
それなのに、今私は初めてそれに気付いた。
私が。
私が愛したからだ。
彼を。
新一を、愛したから。
だから私は人の愛情を、素直に感じることが出来たのだ。
ずっと、ずっと私にはないと思っていた感情。
だって、私は・・・
神様さえも愛せなかった。
愛してる、そんな感情を知らずにいた。
意味は知っていたけど、本当に誰かを愛することが出来なかった。
だから・・ずっと気付かなかったのだ。
目の前の。
こんなに強くて、優しい愛情にも。
ずっと無関心でいたのだ・・・・
「コナン君・・・」
ごめんね、そう言いたかった。
その時。
彼はいきなり止まった。
「?」
「・・・・」
此処はいつも私が降りる場所。
新一との密会の場所だ。
一番最初に逢った時、コナン君もいたもの。
それで此処へ来たのも分かる。
でも・・どうして?
もう空は充分明るくなっていた。
何時頃だろう?
もう、夜明けだわ・・・

「ねぇ、コナン君・・?」
「・・・」
真っ直ぐに彼は一つの場所を見下ろしていた。
そこは密会の場所。
私と新一だけの・・・場所だった・・・。
「し、んいち・・・?」                               




「蘭っ!?」
小さな呟きのはずだった。
風に攫われてそのままどこかへ飛んで行きそうだったのに。
新一は捕えていた。
驚いたように私を見上げてくる。
私は・・・まるで夢みたいに、新一を見つめた。
本当に、夢なのかもしれない・・・・
新一の傍らには一人の天使。
美しい羽根。
真っ白で力に溢れていて。
長い髪が風に揺らめいて、こちらを不思議そうに見上げている。
「・・・・」
ドウシテ?
イッタイ・ナンノイミ・ガ・アルノ?
綺麗な女の人。
その背にあるのは確かに天使の翼。
その人は当たり前みたいに、新一に抱きついて微笑んでいた。
頭の中が真っ白になる。
なんだろう?
上手く考えられない。
上手く言葉が浮かばない。
でも嫌だった。
嫌だった。
嫌だった。
私を抱きしめた腕で。
私を愛してると言った後で。
何にも知らずに、私は・・・
その場から消えてしまいたかった。
恥ずかしくて。
自分が愚かで・・・
「蘭姉ちゃん・・・大丈夫?大丈夫だよ?
僕が・・いる。
ずっと貴女を守るよ?」
その手に抱きしめられて。
私は身を預けた。
そのまま引かれて。
一緒に天上へ戻ろう、そう思った。
意味が分からないの。
どうしてこんな気持ちになるの?
どうしてこんなに嫌な気持ちになるの?
私は・・天使じゃない・・・

「ちょっ、待てっ!!
待てよ、蘭っ!!
コナンっ!蘭を離せっ!」
新一の声がやけに遠かった。
泣きたかった。
そうしたら何にも考えずに済むから。
それなのに、泣けない。
どうしてだろう?
本当に泣いてしまいたいのに。
そんな時涙が出ないなんて・・・。
「蘭姉ちゃん・・・愛してるよ?
僕は、貴女だけを、愛してた・・・。
今も。これからも。
永遠に・・・」
「・・・・」
意味が分からない。
どうしてそんなこと言うの?
知ってたよ?
コナン君が私を愛してくれてること。
それがずっと変わらないこと。
生まれたあの時から。
今もずっと。
それだけが確かな、永遠だったから・・・・・




「コナン君・・・」
「!」
急に私を抱きしめる力が強くなる。
「?」
瞳を開けて見る。
そこには一人の天使。
綺麗な人・・本当に綺麗・・・
白い翼に朝日が映えて。
まるで純白のヴェールみたいに、その人を包み込んでいた。
でも・・天界で見たことがないなぁ・・・
コナン君の知り合いなの?
今、名前を・・・・
「久しぶり・・・逢いたかったわ、コナン君・・・」
「・・・・・」
どうしてコナン君、そんな顔してるの?
私の他にもコナン君をそんなふうに呼ぶ人がいたんだ・・・。
なんだか嫌な感情に支配されてる。
どうしてそんなふうにしか考えられないんだろう?
「本当にありがとう・・・ずっと言いたかったの。
ずっと長いこと逢えなかったから・・・」
「・・・こ・・」
女の人の瞳は涙で潤んでいた。
懐かしそうにコナン君を見下ろしている。
私は急な強い力に身体を奪われた。
「??」
「蘭姉ちゃんっ!」
コナン君がすごい顔でこちらを見つめてる。
なに?
どうしてよ?
なんで・・・
当たり前みたいに、私を抱きしめるの?
「蘭・・・」
耳元に響く、優しい声。
何も言えなかった。
言葉が浮かばない。
でも・・・ずっと聞きたかった。
あなたに名前を呼ばれたかった。
この腕に。
こうして抱きしめてもらいたかったの・・・
「・・・泣くなよ・・おめぇに泣かれるの、辛いんだ・・」
「・・・」
泣いてない・・。
でもその指で涙を拭われて。
初めて頬が濡れていることに気付いた。
背中に感じる、新一の心音。
目の前の黒い翼が愛しくて。
私は・・名前を呼んだ。
「・・新一ぃ・・・・」
「蘭・・・どうしたんだよ?こんな時間に・・・?」
「・・・・・」
自覚するとどんどん涙が溢れてきた。
なによ。
もっと違うこと言ってくれると思ったのに。
どうしてそんなこと聞くの?
そんなの知らない。
でも・・・私は新一に逢えて。
嬉しかったのに・・・・

「離せ。」
静かに、けれど凛と響く声。
怒りではなく冷たい感情。
「コナン君っ!?」
光の翼を矢に変えて、コナン君は新一を睨みつけている。
こんな顔・・初めて見た。
「・・・蘭にも当たるぞ?」
「そんなミスはしない。彼女を離せ。
連れて帰る・・・」
「・・・・・」
新一は何も言葉を返さない。
コナン君、本気だわ・・・このままじゃ・・・
「新一、離して・・もう帰るわ。夜も明けてしまったし・・・
本当にちょっと降りて、すぐ帰るだけだったの・・
ねっ?お願い・・・離して・・・」
「・・・蘭・・・」
また今夜逢えるから。
だから、今は・・・
「離したくねぇって言ったら、困るんだろうな・・・」
「・・・新一?」
そんなこと、言われたことなかった。
いつも笑って私を見送ってくれるのに。
どうしたの?
顔が見たい。
でも後ろから抱きしめられて。
黒い翼の中は薄暗くて。
良く見えなかった。
でもね・・・どうしてだろう?
あなたの困った風な微笑が見える。
なんでだろう?変な気持ち・・さっきまであんなに嫌な気持ちで
いっぱいだったのに。
今は微笑んで、新一を安心させてあげたい・・・
「新一・・・お願い離して・・・」
「蘭・・・」
黒い羽根が私を解放する。
その腕の中を擦り抜けて。
私は彼の頭を掻き抱く。
「今夜、また逢えるでしょう?」
「・・・・どうだろうな。」
「意地悪・・・私が逢いたいと思うから、だからきっと逢えるわ。」
「・・・・」
瞼に口付けた。
「ね?約束・・・」
「・・・ああ。」
やっと笑ってくれたね?
私の大好きな笑顔で。
少しだけ悔しそうに。
そんな顔が可愛いなんて・・・私は・・。
「ねぇ、私ねぇ〜〜その子とお話したいのv」
明るく響く声。
それは天使の女の人だった。
「!?」
「はあっ???」
新一がものすごい顔で女の人を見上げる。
「??」
その子って・・・私?
何処かで逢ったことあったかしら?
よく思い出してみる・・・でも、全然見当もつかなかった。
「いいでしょう?コナン君・・・」
「・・・・・蘭姉ちゃん・・・」
「平気よ?私、お話聞きたいわ・・・」
不可不思議な感情。
でもさっきみたいな嫌な感情はなかった。
本当に嘘みたいに、どこかに行ってしまった。
残るのは疑問。
純粋なそれだけ。



だから私は知りたかった。
知りたいと思う気持ちに、動かされた。

なんだろう?
この強い思いは。
なんだろう?
私を支配するこれは?

知りたい。
知らないことは全部知りたい。
そのチャンスがあるのなら。
今目の前にあるなら、私は逃したくない。

もう知らないのは嫌だった。

彼の気持ちも。

コナン君の気持ちも。

私の気持ちも・・・・

どうしたいのか。
どうなりたいのか。
私は何も分からなかった。

初めて。
今すぐ知りたいと思った。

その美しさに見惚れてた。
綺麗な天使。
新一に抱きついていた細い腕。
純白の翼。

あなたは誰?

新一の何?


私は強く欲した。

その答えをーーーーーーーーーーーー








2001/05/28









Written by きらり

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