月のない夜




柔らかな日差しに包まれて。
世界は全てを愛していた。
世界は全てに愛されてる。
その全てを受け入れる全能の大地。
そこは天界。
天使達はその光の中で、優しく微笑みを浮かべていた。
誰もが平和で、誰もが幸福で。
全ては平等に与えられる。
神が全てを見つめている、この世界ーーーーー


「あら?蘭じゃない・・」
翼を止めて、彼女は野原を見下ろした。
広い庭園の中庭で羽根を伸ばして横になっている姿が見える。
相変わらずコナンってば甘やかしてるんだから。
こんなところでお昼寝なんて。
笑みが零れる。
「先行ってて。あたし彼女と遊んでくから。」
「はい、かしこまりました。」
付き人の天使を先に帰らして、その場へ降り立った。
「ら〜ん♪起きなよ〜。」
「・・・ん?・・もうちょっとだけ・・」
くすくす笑いが止まらない。
完全に寝惚けてるわ。
衣でその頬をそっと撫でる。
くすぐったいのか彼女は身を捩じらせて、寝返りを打った。
「蘭ってば、あたしだよ〜!」
「・・・?」
眩しそうに瞳がそっと開く。
そうして姿を探して、やがてあたしを見つけた。
ぼんやりとした瞳にあたしは微笑んだ。
「久しぶり!元気にしてたぁ?」
「・・・園子っ!」
ガバッと勢いよく飛び起きて、あたしにしがみつく。
それを抱きとめて、あたしは言った。
「本当に相変わらずなんだからぁ〜。
こんなとこで平和にお昼寝してるなんてさ。」
「いつ帰ったの?」
「ついさっきよ。神様に報告も済んだから、蘭に会いに行こうと
思ってたの。」
長い髪が綺麗に揺らめく。
しっかりと抱きついてくるその感触が嬉しくてあたしは微笑んだ。
彼女に会うと思う。
ああ、帰ってきたなぁって。
天界に、この世界に。
あたしは帰ってこれたなって思うんだ。
「私もね、園子に話したいことたくさんあるんだよ?
嬉しい、逢えて。」
無邪気な笑顔にあたしも嬉しくなる。
あたしだって会いたかったんだよ。
本当に、本当に会いたかった。
「しばらくこっちにいれそうなの?」
「うん・・・明日の夜には門に戻らないといけないの・・」
「そう・・・」
しゅんとして俯く蘭に心が痛む。
あたしだってもっと蘭と一緒にいたいよ。
でもさ・・・はぁ、やっかいなお役目なんだよね。
「それより元気にしてた?
なんか変わったことはなぁい?」
「・・・・・」
何か思い出したのか、蘭は少し変な表情をした。
なんだろう?
何か言いたげなんだけど、それでもなんか言い出しにくいみたい。
あたしは蘭から離れて隣りに座った。
羽根をうんっと伸ばして、そうして彼女を覗き込む。
「・・・・」
戸惑った表情が見たこともないくらい、綺麗だった。
これって・・・もしかして・・・そうなの?
あたしは胸がドキドキする。
そんなわけないと、心のどこかで決め付けてた。
でも・・・こんな蘭、あたしは知らない。
見たことがない。
「あのね・・園子・・あの・・」
「な、なあに?」
努めて平静を保った。
にっこり笑って彼女が話しやすいように努める。
「園子・・その真さんのこと好きでしょ?」
「・・ええ、好きよ?」
やっぱり・・・そうなんだよね?
こんなこと蘭から言うなんて、今までなかったもの。
思わず笑みが零れそうになる。
それを必死に抑えてあたしの頬は軽く引き攣った。
「ねぇ、特別に好きな気持ちってどんなの?
どうして好きになるの?」
「・・・・蘭・・・」
抱きしめたくなる。
なんて、なんていじらしいんだろう!
まだ自覚がないのかな?
それでもそれだけでもう充分なような気がする。
あたしは興奮を抑えつつ、視線を外して空を仰いだ。
「好きって・・・なんだろうね。
実はあたしにもまだよく分からないんだ。
真さんが好き。
他の皆も好きだけど・・・
でも特別なの。
真さんの傍にいたいと思う。
それこそ仕事だけでなく、それ以上であの人の力になりたい。
あの人を守れたらいいって思う。
どうしてあの人だったのかな?
でも・・一目見て好きになったよ?
好きになって、その瞳を見てたら分かった。」
「・・・・・」
蘭は真剣にあたしの話に耳を立てている。
少しだけ気恥ずかしいけど、それでも嬉しさの方が強くて。
「・・あたしは真さんが好きなんだって。
他の誰でもなく、彼でないとダメなの。
他の誰も代わりにはなれない。
特別ってそういうことじゃないかな?
初めて、自分以外の誰かの存在がなによりも大切になること。
そういうことだと、あたしは思う。」
「・・・・・・」
あたしの言葉を一言一言、大事そうに聞き入れる。
そうして胸を抑えるように立ち上がり、空を仰いで蘭は言った。
風が蘭の髪を優しく撫で上げる。
抱きしめるように優しく包み込み、そうして離す。
その繰り返し。
真っ白な羽根が綺麗に羽ばたいて、折りたたまれる。
心も身体も真っ白な、綺麗な存在。
その彼女があたしに苦しい告白をした。
「私ね・・・今、好きな人がいるの・・・」
「・・え?」
今更だけど、本当にそう言ってしまう。
逢った時からなんだか様子がおかしいのは気付いてた。
もしかして誰か好きな人が出来たのかもしれない。
そう思ったけど、彼女の口から告白されると。
それは本当に不思議なモノだった。
もう何十年になる?
コナンに彼女を紹介されて。
その透明な精神に驚いて。
それでも友達になりたくて。
こうして時を重ねて・・・もう何年?
アイツに逢ったら、一番にからかってやろう。
この瞬間を誰よりも待ちわびていたのは、他ならぬ彼だろうから。
「・・その人のことを考えてる。いつも、いつも・・・。
恥ずかしくてでも逢いたくて、私はどうかしてるみたい・・」
「最初はみんなそうだよ?
あたしだってそうだった。今も時々、そうなんだけどね。」
笑ってウインクをして見せる。
蘭は少しホッとした表情を見せて、私の隣りに腰を下ろした。
秘密を囁くように、小さな声で愛を語る。
「昼も夜も・・・あの人を考えてる。
今なにしてる?何を見てるの?
何を考えて、時々は私のことを思い出してくれてるかしら?って・・」
「・・・・・・」
なんか引っかかる。
妙な違和感。
彼女の言葉を一言も漏らさずに、あたしは耳を澄ました。
「こんなふうに誰かを想うのは、初めてで・・・やっぱり怖いの・・
私・・・」
「・・・・蘭?」
「?」
あたしは言葉を整頓する。
蘭の想いは充分理解出来た。
疑いもなく、蘭は恋をしてる。
そんなふうに誰かを特別に想えるようになったなんて・・・
それは本当に素晴らしかった。
蘭には・・・そういう感情が欠けている様だったから。
だから、嬉しい。
嬉しいけど・・・それって・・・。
「園子?・・・どうかしたの?」
急に黙り込んだあたしを心配そうに黒真珠の瞳が見上げてくる。
あたしはその瞳を見つめたまま、ちょっとした疑問を口に出してみた。
「ねぇ、蘭・・・その、蘭の好きな人って・・・?」
「・・・・・」
かあぁっと頬が赤く染まる。
その様がとても可愛らしくて、あたしは一瞬言葉が止まった。
本当に可愛い。
ちょっと見ない間になんて表情豊かになったんだろう。
嬉しさで胸がいっぱいになる。
けれど、どうしても疑問が抜けない。
「・・・・新一っていうの・・・」
「・・・・・・・・・」
この時のあたしの気持ちを現せる言葉は、きっとこの世に存在しない。
あたしは本当に目の前が真っ暗になった。
彼女の小さな告白が、心を止める。
思考が停止する。
暗闇に浮かぶのは一つの名前。
シンイチ?
・・・シンイチ・・・。
そんなわけない。
そんなはずがない。
あたしの知ってるその名前は、一つしかなかった。
魔界でも天界でも。
その名前を知らない者は極一部。
その名は禁句。
その名の持ち主は・・。
悪魔でしょう?
「園子?どうしちゃったの?」
心配そうな蘭の声。
それがやたら遠くで聞こえた。
目の前の闇が取れない。
その名前が離れない。
闇夜に光る銀月のように、冷たく煌いてそうして笑みを浮かべてる。
どうして貴女がその名を呼ぶの?
その唇で。
その声で。
あの名前を・・・・。

神様・・・
これは夢ですか?
これが本当?
だとしたら・・・
貴方様はなにを考えていらっしゃるのでしょうか?
何を思って・・・止めなかったのですか?
彼女がその悪魔と出会う様を・・・
ただ、見ていただけなのですか?
ねぇ・・・神様・・・?




「落ち着いてくれ・・・」
執務室で書類に目を通していた彼は、一言そう言った。
「・・・落ち着けますかっ!?どうしてっ・・・」
「・・・」
鋭い瞳で睨みつけられる。
言葉を制して、コナンは呟いた。
「彼女と二人だけで話がある。
今日はここまでにしよう。
君達は帰ってくれ・・・」
「かしこまりました。」
全く同じ顔をした天使が二人、丁寧にお辞儀をすると執務室を出て行った。
あたしはつい声を荒げてしまったことを後悔した。
落ち着かなきゃいけない。
こんなふうに慌ただしくしていたら、神の耳に入ってしまう。
そうでなくても、もしかしたら神は全て見えているのだろうけど。
「コナン・・・あなた知ってたの?
蘭があの男と逢ってること・・・」
「・・・・」
黙ったままあたしを見つめてる。
沈黙は全てを物語っていた。
彼のこんな瞳、見るのはもう何百年ぶりだろう・・・。
こんな瞳を・・・・あたしは忘れてしまっていた。
蘭が生まれてから、あなたはあんまり穏やかで。
幸せそうだったから、忘れていた。
あなたはこの世で一番重いモノを背負ったままだというのに・・・。
その純白の翼を染めて、そうしてずっと戦ってきたのに・・・。
「・・僕が一緒に降りた夜のことだ。
少しだけ目を離した時に、蘭はあれと出逢っていた・・・。
僕がホンの数分目を離した隙だ・・運命はどんな隙間も見逃さない。
それが悪魔の企みだとしても・・・神の・・」
「コナンッ!!」
「・・・分かってる・・・」
あたしは口を閉ざしたまま、彼の傍に寄った。
この執務室が特別な結界に寄って守られてるのは知ってる。
けれどきっとあの方を拒むように、出来ているはずがないのだ。
「・・・全ては動き出してしまってる。
もう止めることは出来ない。
彼女を閉じ込めることなんか、誰にだって無理なんだ。
それは・・君もよく知ってるだろう?」
「・・・・・」
知ってる。
知ってるけど、でもこのままじゃいけないでしょう?
あなたは苦しんでる。
もう充分に、その痛みを味わってる。
これ以上何があるというの?
これ以上、蘭を・・・。
「だからといって、これ以上蘭をあの男に近づけちゃダメでしょう?
あたしが行く。
今夜あの男に会ってくるわ・・・」
ぎゅっと拳を握った。
蘭をあの男に近づけてはダメ。
もう遅いかもしれない。
そんなこと分かりきっているけれど。
それでももしかしたら、まだ間に合うかもしれない・・・。
「君じゃアイツには敵わない。
やめておけ。蘭が泣く・・・」
静かな瞳が冷静にそう言い放つ。
分かってる。
そんなことあたしが誰よりも一番に。
あたしにはそんな力はない。
戦うことなんか出来ない。
けれど、このままにしとけない。
それは、あなただって一緒でしょう?コナン・・・
「それでも行くわ・・・今なら止められるかもしれない。
蘭を、あの男に奪われてもいいのっ!?」
「もう遅いっ!!」
「・・コナン?」
感情的な瞳。
その荒い声。
憎しみを秘めたその姿を。
あたしは目の前で初めて見る。
こんな彼は知らない。
こんな彼は誰も。
他の誰も知らないはず・・。
もう誰も見ないはずだったのに・・・。
「蘭はアイツを特別だと理解してる!
他の誰でもない、アイツを求めてるっ!!
それがどういう意味か、お前だって分かるだろう?
もう・・・遅いんだ・・・もう、誰にも彼女を止めることはできない。
彼女はそれを・・望まない・・。
僕は・・・・」
「・・・・・」
苦しげに息をつく。
肩を落として、その前髪で。
表情も見えなかった。
「僕は・・蘭が望んだことしか出来ない・・
彼女が望んでくれなかったら、存在も出来ないんだっ!!」
心が悲鳴を上げてる。
それが伝わる。
だから。
だから、あたしは行かなきゃいけない。
誰かがそれを気付かせないといけないのだ。
他の誰でもない。
蘭のために。





「あのね、紹介したい人がいるの。」
蘭は少し恥ずかしそうに俺を見上げる。
いつもの時間。
いつもの場所。
いつもの逢瀬はもう何度目?
俺はその頬を優しく撫でた。
愛しさで笑みが零れる。
気付いていた。
地上に上がった時から。
蘭の他に天使がいること。
知ってる気配。
こいつは・・・
「彼女、私の友達なの。
名前は・・・」
ふわりと舞い降りてきたのは、一人の女天使。
銀の衣を纏い、キツク俺を見つめる瞳はどこまでも澄んで、迷いを秘めている。
「あたしは・・・園子。蘭の友達でコナンの部下でもあるわ。」
「知っている・・何度か門で見かけた。
勇気と勝利をもたらす天使、だろう?」
「・・・・・」
園子という名の天使は沈黙のまま、降り立った。
蘭が不思議そうにその女と俺を見比べている。
会話の意味を理解してないのか?
本当に・・・こいつはなんにも知らねぇんだな。
だからか・・。
だからこいつが現れたのかもしれねぇな。
俺は不敵に笑う。
なにを考えてる?
どうするつもりだ?
全てを話しても構わない。
全てを蘭に・・・構わねぇよ?
そんなのもう意味がない。
もう無かったことにはできねぇんだ・・・。
「新一・・・園子と会ったことあるの?」
「・・・彼女は魔界でも有名さ。
聖戦の天使だ。
その勇気で天使達に力を与え、そうして勝利を掴み取らせる。
彼女がいる戦で負けたことはないんだろう?」
「・・・・勝ったこともないけれどね。」
「?」
会話の本当の意味をとらえることの出来ない蘭は不思議そうに、俺達を見比べる。
それでも嬉しそうに笑って言った。
「良かった。二人とも知り合いなのね。」
「・・・・」
女は何も言わない。
俺は笑ってしまっていた。
知り合い、か。
知ってるさ。
あの女がいる戦に何度か顔を出したことがある。
あの女には聖士の恋人がいて、その恋人と共に聖戦に挑んでる。
その白い羽根を紅く染め、そうして天使達を護り続けてる。
恋人の傷を癒し、勇気を与え勝利を掴み取らせてる・・・その滑稽な光景を見た。
もう何度も。
何度も、邪魔してやった。
「・・・今日は園子も一緒でいい?」
控えめに蘭が俺を見上げる。
少し甘えたようなその仕種がとても可愛くて、俺は微笑んだ。
そんなこと・・・お前は知ったら、俺を嫌うか?
聞けない。
知られても構わない。
それなのに、自分から言えない。
いつか言ってしまうかもしれない。
それなのに、それは今ではないのだ。
「ああ、もちろん・・・」
「それには及ばないわ。」
「園子?」
再び羽根を羽ばたかせ、女は浮かび上がる。
蘭は不思議そうに、彼女を見上げた。
綺麗に笑ってみせている。
悲しみを秘めて。
蘭に微笑みかけている。
「言ったでしょう?明日の夜には門に戻らないといけないって。
今夜は、ただ見たかっただけなの。
蘭が好きになったっていう人を・・・。
この目で見たかっただけ・・・」
「もう、帰っちゃうの?」
悲しそうに蘭は瞳を伏せる。
それを見ると、女は悲しそうに笑みを消した。
ふわりと蘭を抱きしめて、その耳に囁く。
「またすぐに逢えるわ。
すぐに帰ってくる。
だから、その時はまた一緒にお話しましょv」
「・・・うん。約束よ?」
「約束。」
差し出した小指に、そっと小指を絡ませる。
「それじゃあね・・・蘭。」
名残惜しそうに蘭の髪を一房握って、そこにキスを残した。
「新一・・・でしたっけ?
蘭を、よろしくね・・・。」
「ああ。」
俺はそうとだけ答えた。
俺の名を知らぬわけがない。
俺の前で何度涙を流した?
汚されて堕ちてゆく天使達をお前は救おうと、手を伸ばした?
傷ついて、泣いて、俺の名を呪った?
同じ唇でそう言うのか?
俺を呪った唇で、愛を囁くのか?
滑稽だな・・・俺も。
お前も。
蘭を欺いて、笑っている。
「またね、蘭・・・楽しく過ごしてらっしゃい?」
悪戯っぽく微笑んで、軽いウインクを飛ばす。
蘭はやっと微笑んで、手を振った。
勢いよく空へ昇っていく。
その光が見えなくなるまで、蘭は手を振った。
「行っちゃった・・・」
「行っちゃったな?」
俺は背中から、蘭を抱きしめる。
「・・新一?」
「逢ってから、やっと抱きしめられた。
早くこうしたくて仕方なかったんだ。」
「・・・・」
しっかりと俺の腕を握り締めてくれるその力が。
微笑みを伝える。
少し赤く染めた頬で。
お前は微笑んでいるだろう?
見なくても分かる。
見なくても感じる。

お前のことなら、なんでも分かるよ?


少し離れただけで、すぐに分かった。
結界が閉じられたこと。
二人はあの中に包まれてる。
強い力。
圧倒的な存在感。
悔しいけど、敵わない。
あたしでは何も出来ない。
だって・・・
あたしは嬉しいと思ってしまった。
地上で待つ彼の姿を確認した時の蘭の顔。
照れ臭そうにあたしを紹介して。
眩しそうに彼の微笑みを見上げる蘭の顔を。
そしてあの男の瞳。
蘭を見つめる時だけ浮かべられる、優しい色。
あんな瞳。
見たこと無かった。
あたしが知ってる彼の姿は。
その3対の黒い羽根を広げて。
血まみれの手で白かった羽根を引き千切って・・・
あの美しいまでに残酷な笑みを浮かべていたあの悪魔・・・。
真さんがいくら向かっても敵わなかった。
あの悪魔があの男?
とても同じ人物とは思えない。
でも・・あの冷酷を秘めた瞳の色。
隠してるけど、血の匂いが落ちてない。
落ちるわけないわよね・・。
あんなに染み付いた血の匂い・・・傍にいるだけのあたしでさえ、
何度流し落としても、完全には消えないんだもの・・・。
最後に見たあの蘭の顔・・・
嘘みたいに優しく抱きしめた腕の中で、蘭は今まで見たことのない表情で
微笑んでいた。
幸せそうに、嬉しそうに、恥ずかしそうに。
なにより、愛しさを隠し切れずに・・・。

もう遅いの?

誰も二人を止められないの?

誰かそんなの決めたの?

どうして二人は出逢ったの?

その意味を、誰が知るというの?

誰が許すというの?

神様・・・?

貴方様は・・・見ていらしたのでしょう?

全てを・・・そうして許してるの?

それなら、あの娘も

きっと幸せになれるのでしょうか?

たとえ、相手が

何百という天使を堕としている悪魔でも?

それでもいい。

なんでもいい。

あの娘が必ず幸せになれるなら。

その笑顔が失わなければ、

もう・・・なんでも構わないからーーーーー









2001/04/27









Written by きらり

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