Untitled -2010.07.07-









朝からどんよりと濃い暗雲が初夏の空を覆い尽くしていた。
ポツンとはっきりと聞こえた音で、窓に目をやると案の定…大きな雨粒が一つ、二つ…加速して次々と窓にぶつかって
くる。

「あちゃ〜…やっぱダメだったか」

舌打ちしそうになるのを堪えると無意識で頭をガシガシと掻いていた。
その脳裏に浮かぶのは残念そうな幼馴染の顔。
七夕の日は毎年天候が悪い。そうそう晴れやしないんだ、考えてみると小さな子供の頃から繰り返したセリフだ。
ようやく絵本を読めるようになった頃からあいつはそういう話に弱かったっけ。
百年も眠り続けたお姫様、毒りんごを詰まらせたお姫様、想いを告げることも叶わぬまま泡となったお姫様、そして一年に一度しか逢うことが許されなかった織姫様…
なんでこうお話ってのはお涙ちょうだいものに出来てんだろうなぁ。どんだけ小さな子供の心にも、切なさを生じさせる。
女になら尚更だ。
いや、オレだって実の所色んなもんが生じたものだ。
ただ蘭の感じるそれらとは多少違ったんだろうが…
そもそもオレなら自分を助けてくれた姫を間違えたりしない。言葉を失ったとしても、その目を見れば分かったハズだ。
それに一年に一度しか逢えない彦星も彦星だ。
オレなら決して怠けない。
それで好きな女に逢えなくなるなんて情けないにも程がある。
…なーんて、ガキの頃のオレは生意気にも思ってたわけだ。
実際仕事(事件)が入れば何を差し置いても行っちまうんだけどなぁ…窓の外はますます降りが増していた。

突然の着信音。
胸ポケットを探り、携帯電話を取り出す。
メールを受信していた。

『やっぱり降ってきちゃったね。
残念。
織姫さま達はデートおあずけだね』

冗談じゃねぇや、とさっさと返信した。

『駅まで迎えに行くから、どっか入って待ってろ。
それに、おあずけじゃねーよ。
雲に隠れてイチャついてんだろ』

送信ボタンを押す時には既に玄関だ。
雨に強い靴を選び、傘を手に取りつつポケットから鍵を探る。

どしゃ降りだろうが、晴れだろうが多分空の上の二人には関係ない。
実際オレにも全く関係はなかった。
大切な幼馴染の顔が曇る程度が大問題だが。
けれど、それも解決してみせる。
まずは一つの傘で一緒に歩く。
それから家に着いたら熱いコーヒー。蘭には砂糖とミルクをつけて。
あ、蘭はアイスコーヒーの方がいいか。
それだけで充分、いつもと同じ特別な一日の始まりだ。















Written by きらり

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