夏色小町










ほんの数歩先を歩くそこにある帯の色は可愛らしい甘めの桃色。
何か模様が入っているがそれをなんて云うのかはわからない。
そしてこの何年の中で初めて見るその浴衣はミッドナイトブルーの生地に淡い白の鈴蘭の花。
ぼけーっとそこばかり見ていた。
紺色と桃色って合うんだなぁと変に感心していたのだ。


「ねっ、快斗なに食べよっか?」
「色気より食い気ですね青子様」
「なんですってぇ〜??」


勢いよく振り返ってくんじゃねーよ。
覗きこむ形で睨みつけられて思わず快斗は視線を逃がしていた。
むくれた青子はふんだ、とそっぽを向いてしまう。
高く上げてまとめられた髪に薄い空色のガラスが幾つも付いたかんざしが挿してあって、青子が歩く度にシャンと心地良い音を鳴らしていた。


「何よ、快斗だってお腹空いてるくせに。
…たこ焼き屋さん多いね。
あっ!かき氷。イチゴ食べたいなぁ〜
キャラメルポップコーンの匂いもいいし〜」
「そんなに食べたらブタ子になんぞ?」
「全部食べるつもりじゃないもん。
何にしよっかなぁ〜って悩んでるだけだもん。
ねっ、快斗は?何食べたい?」


そっぽを向いていたのも忘れて、青子は嬉しくってたまらないといった笑顔を見せて振り返る。
ねっ、半分こしよっか?なんて反則。
小首を傾げるその角度が一番可愛いんだよっ!!!と心の中で叫んでおいて。
とりあえずは返事しとかねぇと後がうっせぇなと結論を出した。
そもそも今日は近所の神社の祭りで、毎年の如く青子と二人でやってきているのだ。
ちっこい時から毎年きているが、年々盛大になっていく気がするのは気のせいだろうか。
連なる屋台は神社の通りをはみ出て、隣の商店街まで並んでいる。
そしてそれに便乗して商店街の店もそれぞれに店を出していて賑わいを見せていた。
良く見りゃいくつも同じ屋台があるが、青子はそんなことにはお構いなしの様子。
真剣に食べる順番まで考えてる青子は本当にお子様で色気より食い気。
それでも茶化さなきゃやってられない。
先程から青子に向かうチラチラとわざとらしい視線が面白くなかった。
大体青子もこんな恰好で来るからだ、と思うがこんな恰好も何も祭りに浴衣は別に間違いでもなんでもなく、周囲には同じように浴衣姿の女の子たちで溢れかえっていた。
それでもだ。
青子は青子で別格。
普段見られない可愛らしい浴衣姿、黙ってりゃそれなりに色気みたいのも感じさせてくれるってのに…それを他の野郎共の視線に晒しているという事実が気に食わない。


「ねぇ、快斗ってば!!」
「…あっ?」


やべ。
またぼけーっとしてたか。
とうとう青子は怒ってしまって一人急ぎ足で歩いて行ってしまう。
慣れない下駄で足痛くなっちまうだろ。慌てて追いかけるが、人波の中に異様に映える
甘い桃色。
なんだか違和感のようなものを感じていた。
なんだこれ?・・前にも同じようなのあったよな・・・
すいすいと人を避けて遠のいて行こうとする青子の背中。
不意に誰か、男だろう。ぶつかったのかよろめいた。
自分でも咄嗟のそういう時の瞬発力ってのは馬鹿にならない。
よろめいた青子に伸ばされた男の手を失礼にならない程度に、それでも指先も触れないように肩から半身を差し入れて遮る。そしてもう反対側の手で青子を抱き支えた。


「ドジ青子。」
「何よぉ〜・・」


面白くない顔をして、それでも小さくありがとね、と囁かれて。
思わず口許が緩む。
俺が払った手を呆然と見ていた男に軽く悪いな、と云い残すとさっさと歩き出して行った。


「快斗が悪いんだからね。折角お祭り来たっていうのにぼけーっとして、青子の話全然聞いてくれないんだもん。」
「聞いてないわけじゃねぇんだぜ」
「嘘ばっかり。何食べたい?って聞いても、全然答えてくれなかったじゃない。」
「ん〜〜まあな。俺はさ。」


キョロキョロと辺りを見回す素振り。
青子はまだ俺に肩を抱かれたままできょとんとしている。
そんな青子の耳元に俺はにんまりと囁いた。


「俺は、食い気より色気。」


たっぷり十秒。
意味が分からずぽけっとした青子の可愛い顔。
伝わってねぇか?しょうがないのでもう一言付け加えておく。


「こっちのが美味そうなんですけど?」
「・・・・・・・・・えっち!!バ快斗っ!!」
「云われると思ったから黙ってたんじゃねぇか」


きゃんきゃんと腕の中でうっさい青子は見事なまでに真っ赤に茹で上がっていた。
やっぱこっちのが美味そうってのは正解だよな。







2005/08/11
ちょっと夏っぽくしてみたv
でもホントは後半ぶった切ってます(笑)
拍手から下ろした時、もしかして付け足すかも。
あくまで「かも」

(MADOKA補足:WEB拍手にて掲載されたものです)

Written by きらり

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