the middle









曇り空。
湿気を含んだ空気。
気怠い午後。
時間は二時を過ぎて。
ベッドに沈む身体はどこか空想的だ。


「あちぃ・・」

「・・・んじゃ、離れれば良いのに。」



恥ずかしそうに、くぐもる声。
それを閉じ込めて。
俺はその華奢な身体を抱く手の力を込めた。



「嫌だ。」

「・・おかしな快斗。」



クスクスと洩れる綺麗な声。
目を閉じたまま、目の前の空間をイメージする。
恥ずかしいから、と。
誰に見られるわけではないのに、閉められた遮光カーテン。
外の曇り空と、中の薄暗さが重なって。
昼間とは思えない重い色合いを作り出す。


「エアコン入れるか?」

「バ快斗っ!まだ5月でしょう?」

「でも、あちぃ・・・」

「もう・・」


呆れたような声。
でも仕方ないなぁと甘さを加えて。
もぞもぞと俺の腕の中で青子の身体が動く。


「何すんだよ?」

「窓開けて来てあげる。
風入れれば、きっと違うよ?」

「・・・いらねぇ。」

「?」


離れていかないように、強く強く抱きしめた。
暑さも何も関係なく。
今、この身体を離すわけにはいかなかった。
この熱さがなきゃ、生きていけない。
多分生きてても、中身がない。
こうして、くっ付いてなきゃダメなんだよ・・・




生まれた時から、決まってたんだろうか?

それで、惹き寄せられたんだろうか?

磁石が必ず裏側とくっ付く性質を持ってるように。

俺の闇も、この光にくっ付くように出来てるんだろうか。

輝いてるから、守りたいのかな。

輝いてるから、壊したいのか。

俺の物じゃないから、欲しいんだろうか。

こうして、抱いても。


全部俺の物にしたつもりで。


俺は何も手に出来てない。



「・・・無理なんかな?」

「何が?」

「お前が俺の物になるの。」

「?」

「青子が生まれたのは、俺の為なのにさ。」

「・・・・・なっ、何云ってんの快斗っ!?」



恥ずかしいのか?
耳まで赤い。
それを唇で触れて。
もう一度言い聞かすように、囁く。


「だって、そうだろ?
そうじゃなきゃ、こんなに焦がれない。
こんなに必要じゃない。
いなきゃ、生きてけないなんて。」

「・・・・・快斗ぉ?」

少し不安そうな声。

見なくてもどんな顔をしてるのか、分かった。
目を閉じてても、容易く見えた。


「青子の身体がこんなに熱いのはさ、、俺の為なんだよ。
こんなに小さいのも、柔らかいのも。
優しいのも、可愛いのも。
強いのも。愛しいのも。」

「・・・・・」

「全部、俺の為なんだ。
俺が男だから。青子は女で。
俺が醜いから、青子は綺麗で。
俺が弱いから、青子が強くて・・・」

「か、いと?」

「俺が快斗だから、お前は青子なんだよ?」

「・・・・・」



不安が伝わる。

心配されてるのが分かる。

どう云ったら、俺がいつもの俺のように笑うのか。

必死に言葉を選んでる。

想いを漁って。

伝える術を探してくれてる。


云わなくても。


言葉がなくても。


お前が俺の為にしようとしてくれること。


云ってくれようとしてること。


全部。

全部、分かる。


こうして抱きしめてるだけで、全部見えてる。



でも、青子に。

俺のこんな感情は見えてるだろうか?

伝わってしまってるだろうか?

怯えてないだろうか?






くるんと俺の腕の中で、青子の身体が反転した。
近い場所で、俺の顔をじっと見つめる青子に俺は笑った。
精一杯。
それでも多分、情けない顔になってるのが。
嫌でも分かる。
そして、青子も笑ってくれる。
全部許そうとする。
無意識に。
特別なことは何もしないで。
俺を、簡単に許そうとしてくれるのだ。


「快斗が快斗だから、青子は青子でいられるのよ?」

「・・・・」

「快斗が優しいから、青子も優しくなれる。
快斗が傍にいてくれるから、青子は嬉しい。
快斗が見せてくれるから、青子は知ることが出来る。」

「・・・・・」

「それに・・・」


口篭もる青子。
言葉の続きを聞きたくて。
知ってるくせに、その唇に紡がれたくて。
俺は口付けて、それを強請る。
その先を。
言葉を。
想いを。

聞かせて、欲しくて。



「青子が・・熱くなるのは・・か、いと・・・に、だからでしょっ!?」

「・・・・・」

「・・ばかぁ・・」


恥ずかしさの余り、青子の瞳は潤んで。
そして、俺の胸板に埋もれた。
見える頭のてっぺんを見ながら。
俺は言葉の意味を探る。



知ってるんだ。


ごめん、それでも知りたいんだ。

伝えてくれるのが嬉しくて。

泣き出しそうなくらい、幸福で。

自分の闇を。

忘れそうになるから。

一緒なんじゃないかって錯覚してしまうから。


だから、こうして確かめずにはいられないんだ。




お前は光で。


俺は闇。


だから、焦がれる。


だから、惹き寄せられる。


だから、互いでいられるのだ。




同じだったら、多分一緒じゃないから。



同じだったら、俺は快斗じゃないだろう。



お前が青子だから、俺は快斗で。



お前が光だから、俺は・・・






気怠い午後。
埋もれる身体。
離せない事実。
裏表ない、真実。


対になる男と女。


光と影の真ん中の時間。












2002/05/22


Written by きらり

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