LOVE×2









今夜は金曜日。
とても長い夜。
約束の密会。
仕事が済んだら。
きっと逢いに行くよ?
貴女の唇を奪いに参上いたします。

溜め息。
もう何度目?
KIDの気障な台詞も慣れてきた。
思い出すのは大丈夫。
目の前で言われるよりは、ドキドキしないもの。
早く。
早く逢いたいな。
仕事が無事に済んでるかしら?
きっと逢いに来てくれるでしょう?
貴方は約束を破ったりしないから。

でも。
いつになっても。
何回繰り返しても。
待っている時間は嫌。
全然慣れないの。
KIDはどうなのかな?
待たせてるのは平気?
どんなこと考えてる?

「キッドの時は、余計なことなぁ〜〜〜んにも考えてないんだろうなぁ・・・」

そう、きっと青子も忘れてる。
約束だけは・・・忘れないでね?
待ってるんだから・・・・
ふあ〜〜〜あ。
出るのは溜め息と欠伸ばっかり。
もう11時過ぎてる。
今夜の予告状は9時のはず。
もう・・来てくれてもいいんだけどな?
どうか・・しちゃたのかなぁ?
もしかしてお父さんに!?
・・・思わず首を振ってた。
そんなこと・・・あるわけない。
あっていいはずがないもの。
・・・お父さんには悪いけど・・・
KIDを青子から誰も取らないで。
本当はKIDは・・・青子のものじゃないんだけどね。
机の上の写真立て。
そこにある二人の笑った顔。
快斗と青子。
まだ何も知らなかった頃。
一緒に撮って貰った写真。
あの頃、青子はKIDが大嫌いだった。
青子からいつもお父さんを引き離すし。
快斗までもKIDの味方して。
皆がみんな。
KIDをもてはやしてた。それは今も変わらないけど・・・
変わったのは青子だけ。

「・・・・」

もう何度目の溜め息?
青子はKIDを好きになってしまった。
だって・・・青子は快斗の全部が好きなんだもん。
いつも青子を子供扱いして。
口を開けば意地悪ばかりで。
でも・・・いつだって青子を助けてくれる。
寂しい時は絶対に一緒にいてくれる。
そんな快斗がもう昔から・・・
大好きだった。
それなのに・・・どうして気付かなかったんだろう?
ううん。どこかで予感してた。
KIDを見た時。
すごく嫌いだと思った。
初めて見たのにそう感じた。
だって怖かった。
あんまり似てるから。
似てるから・・・そうじゃないって思いたかった。
だから思い込んだの。
大嫌いって・・・。
何度も何度も口にした。
そうしたらいつか、本当にそうなると思ったから。
でも・・・そうならなかった。
何度嫌いと言っても。
重なる面影を消せなくて。
やっと全てに気が付いて。
快斗が話してくれた時。
青子はやっと思えたの。
やっぱり快斗が好きだって。

「!」

ノックの音。
窓からのそれなんて・・・彼以外ありえない。
笑みを噛み殺して、青子はカーテンを開いた。

「・・・・」

笑っちゃう。
きっと青子は今すごく笑ってしまってる。
急いで鍵を開けた。
そうして・・・

「お帰りなさいっ!」

窓を開いて、飛びついてしまう。
やっと逢えた!
やっと帰って来てくれた!!
やっと・・・青子のとこに!

「こらこら、そんな格好のままで風邪ひきますよ?」

「平気だよぉ??
それより快斗、大丈夫?怪我してなぁい??」

スッと白い手袋をつけたままの人差し指が、青子の唇に触れた。

「??」

「ここでその名前を呼ばないで。
私以外に・・・誰かが貴女の声を盗らえていたら。
きっと盗り返さずにはいられなくなってしまう・・・」

「・・・・・」

腕の中から逃れて。
青子は部屋の中に彼を招きいれた。
窓を閉めて、鍵も締め。
そうしてカーテンを引く。

「・・・本当にKIDって気障だよね・・・」

「そうか?いつもの俺と変わらねぇ気がするけどな。」

表情が変化する。
悪戯を浮かべた唇に。
ようやく青子はホッと出来る。

「お疲れ様!快斗!」

「おっ?」

もう一度。
やっと安心してその腕の中に飛び込んだ。
誰にも見られる心配はない。
誰にも見せたくない・・・そう言ったら、笑われちゃうな。

「なんだよ?心配してたのか?」

嬉しそうに笑う快斗の瞳。
それが青子を覗き込んできて。
思わず隠れたくなった。

「知らないっ!・・・ねぇ・・・お仕事大丈夫だったの?」

「・・・青子・・」

左手の指が青子の顎を持ち上げる。
背けたいのに逸らせない。
その瞳に捕まってしまった。

「私を・・・誰だと思ってるんですか?
私は、世界最高の魔術師、怪盗・・」

「快斗だよっ!」

それ以上言わせたくなかった。
その首に腕を回して、少し高い顔に近付くために背伸びをする。
そうしてその言葉を止めてしまった。
触れるだけの、キス。
びっくりしたような瞳に、快斗の色が戻る。
青子はそれを確認して、微笑んだ。

「快斗だよ?たとえ誰に変装しても、何をしてても。
青子にとって、快斗は快斗だもん。
この世界でたった一人の快斗だよ?」

「・・・・・・」

ぷいっと顔が背けられる。
頭をがしがしと掻いて、不貞腐れたように言い捨てた。

「敵わねぇな・・・アホ子には。」

「む〜〜。なによぉ〜!バ快斗!!すぐ青子のことバカにしてぇ!」

「バカに、してねぇよ・・・」

「ふんっ!もう知らない!さっさと帰りなさいよっ!
青子、もう寝る!」

茶化されたのが悔しくて。
青子は快斗から離れて、椅子に座った。

「おい、機嫌直せよ〜〜青子ちゃんv」

そんな猫撫で声出したって知らないんだから!
何よ・・本当のこと、言っただけなのに。
それなのに、そんなふうに茶化すことないじゃない・・・。
ポンッと辺りで軽い音が弾ける。
またそうやって誤魔化そうとする。
ポンッ♪ポンッ
ッポン♪
辺りにはたくさんの花が散らばり始める。
本当に・・・魔法みたいだ。
快斗は一体どこにこんなに花を隠してたんだろう?
たくさんの薔薇の花。
白や赤。
ピンクにイエロー。
たくさんの薔薇が青子の椅子の周りに散らばった。
綺麗・・・
不意に。
思いついた。
突拍子もないことを。

「・・・ねぇ、快斗。」

「機嫌直ったか?」

にっこりと振り返った青子に、快斗は安堵の表情を浮かべた。

「写真撮ろっ?」

「・・・・へっ?」

思わず吹き出しちゃう。
だって、快斗ってばそんな格好で。
今ものすごく間抜け顔した。
どうしてみんな気が付かないんだろう?
この世紀の魔術師が。
こんな幼い表情を持っているのに。
どうして・・?

「写真vその格好の快斗と、写真撮ったことないでしょう?」

「えっ?おい!そんなの困るだろう!?現像出せねぇじゃねぇか!」

「大丈夫vこの間ミニポロマイド買ってもらって、
まだ中にフィルム残ってるんだv」

確か机の引出しにしまったはず・・・あ、あった。

「ほら、ね?」

笑って、快斗に詰め寄る。
腕を絡め取って、ベッドに引き寄せた。

「お、おい・・青子・・」

「ほら座って。。」

ぴったりと寄り添って、片手でシャッターを押す用意をする。

「ちゃんと笑ってよね?いい?快斗」

「・・・・はぁ。」

これ見よがしの大きな溜め息。
そうして快斗は笑った。

「しゃーねぇな〜、ったく・・・」

そのわりにはしっかりと青子の肩に、快斗の手が回った。

「上手く撮ってくれよな?」

「大丈夫よ〜、前もこうして撮ったもん。」

「・・・誰と?」

「?」

くるりと快斗が青子を見つめてくる。

「もう、ちゃんとレンズ見てよ〜〜!」

「誰とこうやって撮ったんだよ?」

「・・・お父さんとだよ?」

「・・・・」

数十秒間の沈黙。

「もうちゃんとレンズ見てよね?・・い〜い?
行くよ〜?ハイ、笑ってv・・・・」

フラッシュが一瞬瞳に光を貼り付ける。
瞬いても、暫くチカチカが抜けなかった。
ピッとフィルムを引っ張る。

「ちゃんと撮れてる〜〜〜vホラ、見て見て?快斗?」

ベッドに座り込んだまま。
あ〜ぁ、と快斗は息を漏らしていた。

「?」

「・・・それ気をつけろよな?
親父さんに見られたら、洒落じゃすまねぇぞ?」

「大丈夫よvそしたら、快斗にKIDのコスプレさせたって言うもんv」

「・・・やめてくれ」




青子は嬉しくなって、それを机に運んだ。
持ち歩けるサイズのアルバムのポケットに。
それをしまい込む。
KIDの格好をした快斗との写真。
・・・ごめんね?
快斗がこの姿をどこにも残したくないの知ってるの。
でもね。
青子はやっぱり子供なのかな。
誰の物にもならないこの姿を。
一瞬だけでも。
この一枚の中だけにでも。
閉じ込めてしまいたかった。

本当に。
子供みたいな独占欲。

「快斗・・・」

「ん?なんだよ?」

「・・・大好き。」

「・・・・」

我慢できなくて吹き出してしまった。
だってKIDってば・・真っ赤なんだもん。

やっぱり、快斗だね?


どんな格好しても。

どんなに完璧に姿を変えても。

きっと青子、見つけ出せるよ?

もう、迷ってないから。

全部の快斗が。

好きだからーーー


「・・・・」

無言のまま手招きしてる。

「?」

何も考えずに近付いてみた。

「きゃ!?」

その腕に引き寄せられて。
青子はすっぽりと快斗の腕の中だった。
白いスーツ。
青いシャツ。
目の前にあるそれに瞳を閉じる。
どんなに綺麗に隠してみせても。
その奥にある、それは。
快斗のモノ。

「覚悟しろよな?今日は・・・帰ってやらないぜ?」

「・・えええっ!?」

ものすごい発言に青子は飛び離れようとした。
・・・なのに。
身体が動かない。
ぎゅうっと抱きしめられてしまっていた。

「・・快斗ぉ〜〜困るよ〜〜。」

「大丈夫。今夜中森警部は、KIDのダミーを一晩中追いかけてるんだぜ?」

「・・・・・・」



お父さんてば・・・。
大きく溜め息。
もう何度目の?



でも。
それはどこか諦めにも似た。

幸福の溜め息でーーーーー





HAPPY END











2001/05/19


Written by きらり

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