trick or treat ・・・









窓を開けると冷たい風が髪を攫った。
その冷たさに秋が過ぎるのを知る。
もうすぐに冬は訪れる。
それを知って青子は微笑んだ。
寒いのは嫌いじゃない。
だって・・・


「風邪を引きますよ?」
「あ、快斗ー?」



屋根の上を見上げるように首を上げると、視界が真っ白なそれに塞がれてしまう。
瞬くと同時に青子は快斗の腕の中にいた。


「今は天下の怪盗KID様だぜ?」


ウインクして快斗は微笑んでみせる。
青子は面を食らって腰を引くが、既にしっかりと抱き包まれていた。


「・・・手、早い。」
「ま、それがとりえだからな。」


悪びれずに頬にキスされて、青子はむぅっと頬を膨らませた。


「またこんな格好でここまで来て〜〜。
お父さんに見つかっても知らないよぉ〜?」
「親父さんは明後日まで事件で出かけてんだろ?」
「知ってたの?」


云ってなかったことを当然のように快斗に云われて、青子は目を丸くする。
心配すると思ったから云わないでおこうと思ってたのに・・・


「俺の情報網を馬鹿にすんじゃねぇよ。
ったく不用心に顔だしやがって・・」
「?」


ぎゅうっと抱き締められると、布越しにも快斗の体温が伝わってくる。
それに安堵して青子は頬を緩ませた。
KIDの格好をしていても。
この温もりは快斗のものだ。
それが当たり前なのに嬉しくて、笑えてしまう。


「寒いでしょ?入る?」
「当然。今夜は悪戯しに来たんだからな。」
「きゃっ!」


ぐいっと引き寄せられたと思ったら、もう抱き上げられていた。
いわゆるお姫様抱っこだ。
快斗の時もそうだけど、KIDの時は余計にそう。
遠慮がない。
戸惑いもない。
気障なんだから・・・
青子は頬を染めて快斗を睨みつけた。
ほんの少しだけすまなそうに口元に笑みを浮かべて、窓から部屋に上がり込む。
しっかりと鍵を閉めて、カーテンを片手で閉めると。
シルクハットをぽいと放って見せて、快斗は指をパチンと鳴らした。
放ったシルクハットはポンっと弾けて見せて、青子の上に色とりどりの
キャンディーが降って来る。


「?・・あ、そっか。」
「忘れてたか?」
「うん、今日ハロウィンだったね〜。」


無邪気に微笑む青子は運ばれて、ゆっくりとベッドに下ろされた。
胸の辺りに一個のっかっていたキャンディーを取って、青子は包みを取って
快斗を見上げる。


「trick or treat・・・」
「・・・・」


自信ありげなその笑みが青子は苦手だった。
そんな目で見られるのは気恥ずかしい。
ここにいるのは快斗のはずなのに、快斗ではなく見えて。
確かにそこにいるのはKIDなのだけれども・・・


「お菓子あげるから・・・」


キャンディーを快斗の口元に運んで、微かに笑うその唇に押し当てた。


「・・悪戯しないで?」


パクッと指まで咥えられて、青子は笑ってそれを抜く。
その指を捕まえられて、口元まで運ばれた。


「それは無理な相談だろ?」
「・・・意地悪。」


それでもどこか笑みを含んでいて、そんな青子の指先に快斗は何度も
口付けた。
好きなようにさせてくれる青子が愛しくて、快斗は大事そうにその前髪を
掻きあげた。現れた額にも何度も唇を押し当てる。


「か、快斗ぉ・・」


甘い声で困った風に名前を呼ばれて。
快斗はぎゅうっと目を閉じてる青子の顔を見下ろした。


「青子・・・目開けて?」
「・・・・」


そおっと、様子を窺うように薄目が開く。


「んっ?!」


ペロリと目蓋を舐められて、青子はまん丸に瞳を見開いた。
その目に映る自分が可笑しくて、快斗は笑ってしまう。
そこには可愛くて仕方ないっといっただらしない顔が映っている。
真っ赤になったまま自分を見上げてる青子に、快斗は優雅に微笑んで見せた。






「お菓子なんかより、お前の方がもっと甘いよ?」





気障な台詞と甘い誘惑。

どちらがうわてかそれは内緒。


二人だけの秘密ですv





sweet sweet night・・・















Written by きらり

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