Flower
















赤い花が嫌いだった。

ずっと。

ずっと。

嫌いだったの・・・


感謝を込めて“ありがとう”

そんな気持ち、今更でしょう?

どうして伝えられないのに。

毎年。

今日は来るんだろう?


それは青子がまだ子供の時。
今だって子供だってお父さんと、快斗に云われるけど。

まだ、その意味さえ知らなかった、子供の頃。

青子は赤い花が、嫌いだったの。

快斗は知ってたんでしょう?
お父さんも気付いてたんだ・・・

青子は必死になってそうじゃないって思い込んでたのに。

簡単に、快斗にはバレちゃうんだね?

だからね・・・。

だから青子にも分かるんだよ?

快斗の秘密、気付いてるの。

でもあなたは何も話してくれないから。

きっと聞かれたくないんだと、分かるよ。

だから黙ってる。

知らない振りは簡単だよ。

あなたが思うより、青子はずっと・・・

簡単に嘘がつけるようになっちゃった。

こんな青子は嫌いですか?

だから気付かれたくないの。

いつか快斗が全部話してくれたら。

抱きしめて。

云ってあげたいの。

快斗が昔、してくれたように。

“お疲れ様”って・・・・







「なんで泣きそうな顔してんだよ?」
「えっ?」
青子は目を真ん丸くしちゃった。
快斗は不貞腐れたみたいな顔をして。
そのまま青子を睨むみたいに見つめてきた。
なあに?
青子変な顔してた??
いつもの帰り道。
いつもの会話。
いつもの顔・・・してるつもりだった。
それなのに快斗はなんだか不機嫌そうだ。
「・・・快斗?」
「青子、今日一日ずっと黙り勝ちじゃねぇか・・・
なんか・・あったのかよ?
俺には・・話せねぇのか?」
・・・不機嫌そうな快斗の顔。
不貞腐れてたのはそのせいだったのかな?
青子が変な顔してたから?
快斗は心配してくれてたの?
でも・・・
「大丈夫だよ?
青子はいつもとおんなじじゃない?」
「・・・」
「きゃ?痛い、よ?快斗・・・?」
突然手を捕まれて、引っ張られる。
ずんずんと快斗は歩いて、よく一緒に遊ぶ土手までやってきた。
・・・もうずいぶん日が沈んできてる。
空がオレンジ色で綺麗・・・。
犬の散歩をしてる人が多かった。
此処から見る川が好きだった。
特にこんな夕日の中だと。
川はキラキラとオレンジの光を反射させる。
まるで宝石みたいに・・・すごく綺麗なんだよ。
「・・・・青子、これ・・・」
快斗の手が青子の目の前に差し出される。
「?」
なにかマジックでも見せてくれるのかな?
首を傾げて、じっとそれを見つめる。
何度見せてもらっても。
快斗のマジックは種が明かせないんだもん。
今度こそ・・・・
ポンッ♪
軽い音を立てて、快斗の手には花が握られてた。
「・・・・・」
赤い花。
自分がどんな顔してるのか。
分からなかった。
すまなそうに項垂れて。
快斗は上目遣いで青子を見つめる。
「これ・・・青子に。」
「・・・どうして?」
いつもなら。
いつもなら、ちゃんと云ってた。
『やっぱり快斗はすごいねぇ。どういう仕掛けなのぉ??
青子にくれるの?ありがとう。』
笑顔で云えた。
心から、そう思えた。
それなのに・・・・
「いつもお疲れ様。
青子・・・いつもおじさんのためにご飯用意したりさ、
掃除したり・・・してるじゃん?
だから・・・その・・」
「・・・・青子に?」
「・・・」
深く、快斗は頷く。
青子はもう一度その手の中の赤い花を見つめた。

それを。

それを今日、もらえるのは。

世の中で、一人だと思ってた。

いつも忙しく、それでも優しく“お母さん”でいてくれる。

その人の為の、花だと思ってた。

「俺もさ、時々お菓子とか作ってもらうじゃん?
一緒に宿題すると、俺の部屋片付けてくれたり・・・
だから、その・・ありがとう、青子。」
「・・・・・・」
「わ、わあぁ!あ、青子、泣くなっ!泣くなよぉ!!」
あたふたと快斗は周りを見回す。
散歩中のおじさんやお姉さんは、こっちを見下ろしていた。
「・・かい・・とぉ・・・り・・」
ありがとう。
そう云いたいのに、言葉が上手に回らない。
どうしてだろう?
悲しかったわけじゃないのに・・・涙がたくさん出てきた。
自分でも訳が分からなくて、涙が止められなくて。
青子は困ってしまった。
こんな所で泣いてたら、快斗を困らせちゃうのに・・・
「・・・・・」
「?」
温かい。
まるで全部から守ってくれるみたいに。
青子は抱きしめられてた。
快斗に。
その腕に。
「こうしてっから、早く泣きやめよ?
・・・青子、いつもお疲れ様。」
「・・・いとぉ・・・」
バカ。
バカ。
バカ。
余計に涙が止まんないじゃない。

だから、云えなかった。

『ありがとう』って・・・。

『大好きよ』って・・・。


・・・その時は本当に純粋に、その気持ちだけ・・・






何気なく出掛けた時の帰り道。
不意に快斗は思い出した。
きっかけは赤い花。
そうだ、今日は・・・
道を変える。
このまま青子のとこへ行こう。
どうせ。
今夜逢いに行くつもりだったしな・・・

あの時と同じ夕日の中で、あの頃の気持ちのまま・・・って
わけにはいかないか。
思わず笑みが零れた。
あの頃だって一番好きだった。
一番大事だった。
それなのに。
でかくなっちまった今は余計な気持ちまでついて。
一番、好きだ。
それでも無理なんかさせられなくて。
まだまだアイツはお子様だからな・・・。



赤い花をあげたかった。

ずっと。

ずっと。

赤い花を・・・


感謝を込めて“ありがとう”

そんな気持ち、今更だ。

もっともっと深い気持ちを。

今は。

毎日伝えていたい。


まだ子供だったお前を。

泣くのをずっと我慢してるお前を。

俺は笑わせたかったんだ。

その笑顔が見たくて。

何度も何度も魔法を見せた。

何度も何度もバカなこと云った。

お前が笑ってくれるなら。
無邪気な子供のままでいてくれるなら。

それで良かったんだ。ずっと・・・

だけど。

いつか、知られてしまうかな?

俺の云えない秘密を。

まだ何一つ話せないけど。

いつか、話したいと思ってるんだ。

だから、もう少し。

もう少し無邪気なままのお前でいて。

お前が思うより俺は・・・・

簡単に嘘がつけちまうんだな。

こんな俺は嫌いだろうな?

いつか全部話したら。

抱きしめて。

謝りたいよ?

青子が許してくれるまで、ずっと。

“愛してる”なんかじゃすまないけど・・・




驚いた瞳が嬉しそうに笑う。

「いらっしゃい、快斗。どうしたの?今日は?」

可愛い声。
愛しい笑顔。
大事な宝物。
ずっと昔から、何よりも・・・


悪戯を隠した笑顔で微笑んでる。

「よう、青子。」

そうして軽い音。
共に表れる赤い花。
大事な人。
ずっと昔から、何よりも・・・


やっぱり俺は・・・

・・・やっぱり青子は

“愛してるよ・・・” “ありがとう”


Written by きらり

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