HappyCard










one★





「あ〜あ。」
「なんだよ、そんなでかい溜め息つくなよ〜」

そう言っても青子はがっくりと項垂れたまま、歩いている。
さっきから漏らす言葉と言えば・・
ハァ。
あ〜あ。

「・・つまんないの、快斗ってば・・」

この三つだ。
そりゃ俺が悪かったかもしれないさ。
でもな。
どう見たってバレバレなんだよ。

「・・どうしてかなぁ〜?あんなに皆で練習したのに。」
「そんな落ち込むなよ?楽しかったぜ?」
「・・・」

青子は拗ねた顔で俺を見つめる。
完全に疑ってるな。
でも・・俺は笑って言った。

「上手だったよ。佐伯も田村も、皆さ。
もちろん青子だって、上手にやってたぜ?
俺はすごく楽しかったけどな?」
「・・・・・」

それでも、どこかつまらなそうに青子は道路に視線を落とした。
6月ももうすぐ終わる。
梅雨だっていうのにまとまった雨は降らない。
けれど。
どんよりと曇った空は今にも雨が降り出そうだった。
今日は6月20日。
一日早いけど俺の誕生日パーティーだった。
明日は月曜だから、やるには今日が選ばれたのだ。
俺の家に青子をはじめ、仲の良い友達を招待した。
みんなそれぞれにプレゼントを持って来てくれて、そして
催しまで準備していてくれた。
それは簡単なマジックショー。
青子が中心に皆で考えて、練習してくれたのだ。
嬉しかった。
例え片手に隠してるビー玉が丸見えでも。
空っぽの箱の底に黒い紙で底が作ってあって、その中からキャンディーが山程
出てくるのも。
タネも仕掛けも丸見えだったし、知ってたけど。
俺は皆の気持ちが嬉しかったんだ。
何より。
今日の為に皆で一生懸命練習してくれたことが、嬉しかった。

「せっかく快斗をビックリさせてやろうと思ったのに。
やっぱり快斗のマジックの方がすごいんだもん。」

そう。
パーティーもそろそろお開きって時に、数人の女の子にお願いされて、
俺はいくつかのマジックを見せた。
その女の子たちには赤い花を。
男の友達にはピカピカの外国のコインを。
それぞれ今日のお礼を込めて。
マジックで出して、手渡したのだ。
4時になったので皆それぞれ帰っていった。
青子は綺麗に飾り付けした部屋を片付けるために、残ってくれてた。
片付いた時には5時になってしまったので、母さんに言われた俺は青子を家まで
送っていってる・・その途中なのだ。
本当は言われなくたって、最初から。
青子だけは送って行くつもりだった。

「ハァ〜〜。」

もう何度目の溜め息だろう?
俺はなんだか申し訳ないような気持ちになってしまう。
青子に喜んで欲しかったのにな。
本当は青子にだけに、あの花をあげたかったのにな。
そんなこと言えないけど、笑って欲しくて俺はマジックを見せた。

『マジックを自慢してはならないよ。
例えどんなに素晴らしいマジックを使えても、それを使う心の持ち主が
つまらない人間だと、そのマジックも途端につまらないモノになってしまう。
観客は敏感だ。
どんなにポーカーフェイスを装っても。
お前の魔法の根源を、決して見逃さないものだからね。』

俺はつまならいマジックをしたのかな?
だから青子はそんな顔するのかな?
どうしてだろう?
何がいけなかったんだろう?
自慢するつもりなんか、これぽっちもなかった。
・・・本当に?
皆の不器用な手つきを。
微笑ましい努力を。
俺は本当に、笑わなかった?
俺のマジックを、見せびらかさなかった?
・・・本当に?
だって、そうでなかったら。
青子はどうして笑ってくれない?

「あ・・降ってきた!快斗、急ごう?」
「・・・あっ・・うん。」

俺と青子は駆けた。
降り始めだし、青子の家までもう5分とかからない場所だった。

「良かったねぇ〜〜。濡れなくて・・」
「ああ。それじゃ俺帰る・・」
「雨止んでないよ?」
「これくらい、走って帰れば平気だよ。」

なんだかまともに青子の顔が見えなかった。

「そうだっ!!ちょっと待ってよ、かさ!
傘貸してあげる!!ね?」
「・・・・」

駆け出そうとした腕をしっかりと青子に握られて、俺は仕方なく
頷いた。
頬が熱い。
赤くなっているかもしれない。
ったく、だらしないぞ!!俺!!
いつだってポーカーフェイス。
俺は世界一のマジシャンになる男なんだから!!
今はまだ無理だけど、親父を追い越して。
きっとなってやる!!
そうしたら・・・青子も笑ってくれるかな?
その時は・・

「お待たせ〜〜〜vはい、傘どうぞ?」
「・・これ・・・」

紺色の傘。
それは前まで青子が使ってたヤツだ。

「いいよ、これ借りて明日雨降ったら青子、困るだろう?」
「ううん、もういいの。これ要らないから、快斗にあげるね?」
「?」

ぎゅうぎゅうと押し付けられて、俺はそれを受け取る。

「この間お父さんに新しい赤い傘買ってもらったの。
今度雨が降ったらそれ使うから、もうそれはいいの。
快斗にあげるね?使って。」
「・・・・」

やっと笑ったなぁ・・・
俺はぼんやりそんなこと考えてた。

「快斗?どうしたの??ぼんやりしちゃって?」

首を傾げて青子は俺を覗き込んでくる。
慌てて俺は首を振った。

「あ、・その、サンキュな!」
「あ、待って快斗・・。」

傘を開こうとした時、青子が俺の腕をもう一度掴んだ。

「ねぇ、お誕生日おめでとう。快斗。
7才の快斗に、良い事がありますように。」
「・・・」

頬に触れた温かい感触。
俺はぼうっとそれを受けていた。

「・・じゃあ、また明日ね?バイバイ!」

照れた笑顔でさっさと青子は身を翻してしまう。
そうして、玄関の中に入ってしまった。

「・・・・」

思わずその頬に触れる。
今よりずっと子供だった時、いつもしてたこと。
泣いた度に。
謝る度に。
仲直りする度にした行為。
俺の親父たちの真似から、始まった行為は小学生に上がった頃には
もうお互いにしなくなっていた。

「・・・ラッキー」

思わず呟いてた。
子供ながら単純だな・・・そう思いながらさっきとは打ってかわった感情で空を見上げる。
雨は少し強くなってきていた。
それでも俺の心は快晴だ。
バッっと傘を開いて。
俺は目を丸くした。

「・・・すげぇマジックだな。」

広がった傘を差して、俺はそれを見つめた。

紺の傘の下に、ゆらゆらと揺らめく白いマント。

どこかで見たような・・・。

そうか、親父の衣装に似てるかも。

苦笑してた。

この雨の中で。

まるで太陽みたいに笑う。

真っ白な照る照るぼうず―――――




ジリリリリリリ・・・・・・・


目覚ましの音が響く。
なんだか物足りない感覚に、俺は疑問を抱きながら手を伸ばして
止めた。ベッドの中まで持ってきて、時間を確認すると・・・
「もう・・10時過ぎてんのかよ・・・」
ぼうっと今見ていた夢を思い出した。
まだ7才の青子。
・・・可愛かったな。
俺もガキでさぁ〜〜。
ほっぺたにチュウされたくらいで浮かれちまってよ。
あん時の照る照るぼうずはどうしたっけ?
青子にもらったもんだからなぁ〜〜。大事にしまったはずなんだけど・・・・思い出せない。
そして、俺は別のことを思い出した。
「青子?・・・?」
昨夜しっかりこの腕に抱いて寝たはずなのに・・・・
青子の姿はなかった。
温もりさえ残っていない。
どうしちまったんだ?

俺はベッドから起き上がり、ふと気付いた。

サイドテーブルに置かれた一枚のカード。

「?」

俺はカードを読んだ。

『ハッピーバースデー☆快斗v

 お寝坊さんだねぇ。
 青子は買い物に出かけます。
 それでね〜、次のカードを見つけてねv
 ちょっとした暇つぶしになるでしょ?
 それと、最後まで見つかったらスペシャルプレゼント追加だから、
 頑張って探してね〜〜〜vvv


 ★二枚目のカードのある場所は・・・
  まずは紫ちゃんに水上げてねv
  栄養ゼリーも置いてあげてねv



 青子より☆』


「・・・・・・・・水!!水だっ!!」

俄然やる気出た!!

最後まで見つけたらスペシャルプレゼント追加だってぇぇぇ!?

・・・我ながら単純に出来てるな。
男って。

俺は自問自答も放り投げて、この間青子が買ってきた紫の
紫陽花に水をやりに行くことにした。

・・・でもなんだろう?
スペシャルって・・・・






two★


『ありがとうvお水あげてくれたんだね。

 それじゃとにかく朝ご飯にしてください。
 快斗の好きなマカロニサラダ作ってあるよv
 それとコーンスープあります。あっためて食べてねv
 
 それから三枚目のカードは探してくださいv

 青子より☆』



紫陽花にたっぷりと水をやってから。
俺はキッチンへ向かった。
冷蔵庫を開けてみると、ラップがかかったマカロニサラダ。
それを取り出して、俺はテーブルにのせた。
確か・・バターロールあったよな・・・。
俺は電子レンジの横の籠を覗く。
ん、あったあった♪
それをテーブルに放って、コンロの鍋に火をかけた。
その間にコーヒーを入れる。
目が覚めるようにとびっきり濃くしよう・・・

不意に読みかけの雑誌を思い出した。
キッチンの向かいのカウンターに手を伸ばし、俺はそれをとる。

「ん?」

雑誌にはメモがくっついていた。

『食事中に本読まないの!
 青子、お見通しなんだからね!!』

「・・・すげぇや・・」

思わず苦笑した。
本当こういうとこだけ、察しがいいんだよな。アイツ・・・
部屋の中にスープの温かい匂いが広がっていく。
俺は慌てて火を止めた。
仕方ないのでリモコンを取ってテレビをつけた。
まだ熱いスープを一口飲んで、俺はほうっと息をつく。
マジ、うめぇや。
平日の朝は何もおもしろい番組なんかやっちゃいない。
ほとんどが奥さん向けのバライティーやなんかだ。
俺は適当な番組にしたまま、朝飯にした。

それにしても、本当に料理上手いよなぁ〜青子は。
小さい頃からなにかと親父さんの手伝いしてたのは知ってる。
家事はなんでも手伝った。
自分から、なんでも出来るようになった。

初めてアイツの手料理食ったのいつだっけ?
お菓子とかも結構作るんだ、アイツは。
バレンタインやなんかの時は時々作ってくれた。
でも手料理を食ったのは・・・・・


確か、14の時の―――――――




「おはようっ!」
「・・おお?」

朝、外に出るといきなり青子がいた。

「一緒行こう?」
「おお、いいぜ。」

久しぶりだった。
こうして青子と二人並んで、学校へ行くのは。
青子は中学に上がって、なんだかいろいろ忙しくなっちまった。
もともと頼られたら嫌な顔なんか出来ない奴だし、
一度引き受けたらとことん一生懸命やっちまう。
だから最近は、委員会やらなんやらで何かと忙しい。
学校も早く行っちまうし。
帰るのも遅かったりする。
そりゃ俺も早く出ればいいだけの話しだし、帰りだって
待ってれば良い問題だ。
けれど。
俺たちは14才。
幼なじみだって皆知ってるけど、あんまり年中べったりは出来なくなった。
なんとなく、しにくいのだ。

「久しぶりだね、快斗最近遅刻ばっかしてるでしょう?
ダメだよ〜〜ちゃんと起きなくっちゃ。」
「俺の俊足でいつも一時限目には間に合ってるだろう?」
「もっと余裕持ってこないと、ダメってこと。
走ってばっかだと、転んだりするかもしれないでしょう?」

・・・心配してくれてるんだよな。
それは嬉しい。
嬉しいけど、素直にそんな顔できやしなかった。

「それでね・・・組の・・・さんが・・・・なの・・」

さっきから、青子は楽しそうに笑っていた。
いろいろ話したり、嬉しそうに笑う。
それを見てるのは気分が良い。
だけど。
時々感じる視線。
正直時々なんかじゃない。
周りの生徒たちに好奇の視線。
それに気付かないでいれるほど、俺は能天気ではいられなかった。
分かってる、気にしなきゃいいんだ。
俺と青子は幼なじみだし。
家だって近所だし。
ずっと昔から一緒だったんだ。
今更、離れることなんか出来やしない。

「そしてねぇ〜〜可笑しいのよ。・・・君てばね・・・なんだって」

聞き流してるつもりだが、聞き流すつもりはない名前や言葉が
時々転がってくる。
生徒会のアイツか・・・
最近やたら青子の周りうろついてるんだよなぁ・・・
アイツは先輩だし、青子は全然気付いてないが・・・
アイツは間違いなく、青子狙いだ。
ちくしょう・・おもしろくねぇ!

・・・そうおもしろくないのだ。
困ったことに。
俺は、青子が、前よりもずっと好きで。
だが。
それは今はもう俺だけじゃないんだ。

「・・・こ・・」
「えっ?呼んだ??」

首を横に振る。
俺は何も言わなかった。
青子は変わらずに言葉を重ねる。
分かってるんだ。
青子が今まで会えなかった分、補うかのように一緒の時間を作ること。
それは青子も同じ気持ちだからだろうか?
なんとなく、違う気がする。
青子は可愛い。
子供の頃からずっとそうだったけど、今はもっと違う。
他の誰もがそれを認めるんだ。
他の誰もアイツを放っておかない。
大好きな笑顔。
俺の好きな笑顔。

でもその笑顔が、人を引き寄せる。
青子を輝かす。
お前だけがそれに気付かないままで。

「ねぇ・・快斗。」
「ん?」
「おめでとうvお誕生日。」
「あ・・ああ。サンキュ覚えててくれたんだ?」

校門が見え始めた。
風紀委員を兼ねてるあの先輩の姿が見えた。
視線を感じる・・。
俺は自分の中の黒い感情を持て余していた。

「当たり前じゃない。それでね・・・今日なんだけど・・・
ねぇ、快斗聞いてる?」
「聞いてる。今日・・?」

向こうに気を取られてた。
けど、青子の言葉に俺は止まった。
青子も立ち止まる。
少しだけど、出来てしまった目の高さの差。
俺を少し見上げて、青子は笑った。

「帰りも一緒に帰ろう。
それでね、うちで夕飯食べていかない?
青子腕によりをかけて、ご馳走作るから!」
「・・・・マジ?」
「うんv」
「・・・行く。」

小さな声で答えていた。
別に誰が俺たちの会話を気にしてるとは思ってないが。
あの先輩は違うご様子で・・・
俺は不意に浮かんだ悪戯心を押さえ込めずにいた。

「な、青子・・・こっち、耳貸せよ・・・」
「??」

不思議そうに俺を見つめ、青子はぴったりと寄って耳を出してくる。
俺はその可愛らしい耳に囁いた。

「サンキュー青子。これは貴女に・・・」
「きゃっ?!」

耳に囁いた言葉とともに、青子の前に差し出す花。

赤い花。

あれから、俺は・・・

お前以外にこの花を、差し出すのはやめたんだ。

赤い花。

それはいつもお前だけに。

校門を二人並んで通り抜ける。

あの時も、俺は大人げなかったな。
どうしてだとう?
アイツのことになると、俺はどうもダメだった。
あの時から、既に・・・。


「お誕生日おめでとう!快斗♪」

「・・・サンキュー」

目の前のテーブルにはこれでもかというほど、いろいろ料理が並んでる。

「ちっちゃい頃から快斗マカロニサラダ好きだったでしょう?
作ってみたの。
おばさんのとは比べ物にならないだろうけど、食べてみてね?」
「ああ。頂きます。」

にこにとと青子は向かいに座って、その様を見つめている。
なんだか照れるな・・・・。
俺は箸を伸ばして、口の中に運んだ。

「・・・・」
「・・・・ど、どう?」

恐る恐ると言った感じで、青子が覗き込んでくる。
俺は素直な感想を言った。

「美味い。」
「・・・ホントッ!?」
「・・・嘘。」
「ええええっ〜〜〜〜〜」

がっくりと肩を落とす青子に俺は堪えきれずに、笑った。

「冗談に決まってんだろ!美味いよ、マジで。」
「・・・・別にいいんだもん。」

拗ねた目で俺を見上げる。
いつから・・こんな目で俺を見るようになったんだろう?
違う。いつからこんな目を、こんな気持ちで見るようになったんだ?
俺が・・。
俺が、こんなふうに青子を見ているの、バレてないよな・・・?

「マジで美味いって!母さんのより、きっと美味いぜ?
びっくりしたよ、本当にな。」
「・・・ま、いいや♪」

俺の必死な様子に、青子は微笑むと一緒に食べだした。

親父さんの姿がない。

聞かなくても、なんとなく分かってた。

今夜は夜勤なのだ。

それで青子は一人きりだったんだ。

それで俺を呼んだのかな?

淋しかったから?

不安だったから?

それとも・・・・・・


自分の善からぬ考えに頭を振る。
んなわけねぇか。
このお子様が・・・
俺だって、お子様を相手にする気はないぜ?

それが青子じゃなかったら。

興味だって湧かないに決まってる。


「ご馳走様。」
「どういたしまして。」

青子はにっこりと空の皿を眺めていた。
そうして後片付けを始める。

「ねぇ、ケーキあるから後で食べよう♪」
「もう食えねぇよ・・」
「大丈夫よ。甘い物は別腹じゃない?」
「・・・・」

それはお前だけだよ。

「はい、どうぞv」
「サンキュ」

目の前に出されたのはコーヒー。
湯気があったかくて、俺は少し照れ臭かった。
それを気付かれたくなくて、俺はコーヒーをさっさと飲む。
なんだか、夫婦みたいだな・・なんて、バカなこと考えなきゃ良かったぜ。

「こうしてると、家族みたいだねv」
「ぶっ!!・・・」
「大丈夫??快斗?」
「・・ゲホ・・ああ、ああ大丈夫だよ。」

「もう子供みたいなんだから・・」

そんなこと言って、零したコーヒーをティッシュで拭いてくれる。

「染みになっちゃうかな?」
「いいよ、これくらい・・・」

家族か・・・。
まだ、今はそれくらいでもしょうがねぇよな・・・。

俺は落ち着いて、コーヒーを飲み干した。

やたらと甘いそれは、なんだかやっぱり照れ臭くて―――――






「ご馳走様」
俺は短く言って、片付け始めた。
食器を流しに運んで洗っておく。
新聞を元の場所に戻して、俺は気が付いた。
カウンターの脇の手紙入れに、さっきと同じカードを見つけた。

それを取って開いてみる。


『快斗へ

 三枚目のカードです。
 きっと食後に新聞読むかなぁ?って思って
 ここに置いておきました。
 それとも読みながら食べたんじゃないでしょうね?

 とにかく、次のカードはどこでしょう?

 ★ヒントは・・・・
  とにかく早く着替えてください。
  いつまでもパジャマのままでいないでね?
  ちゃんと着替えたか、飛べない蝶々が見張ってるんだから!


 青子より☆』


しょうがねぇ・・・着替えるか・・・。
その前にもう一度顔洗ってこよう・・。
ついでに歯磨きもしてから、俺はクローゼットに向かった。
着替えろって別にどこもいかねぇしな・・このままでも
良いんだが・・・そういうわけにも、いかないか。

さっさと次のカード読みたいしな。

「・・・」

それにしても飛べない蝶々ってなんだ?
部屋の中に蝶の置物なんかねぇしな・・・。
青子にしては少し捻ったな・・・・

「う〜〜〜ん・・・もしかして・・・」

俺は心当たりの場所に向かった。
もしかして、あれのことかな?









three★


クローゼットの隣りにある、青子が持ち込んだ身体全体を
映せる鏡に掛けてある、三角の合わせ鏡。
青子が後ろ姿を確認する時に使うヤツだ。
青い鏡。
開くと丁度羽根を広げた蝶のように・・・

「見えなくもないな。」

笑みを浮かべてその裏に貼ってあるカードを読んだ。

『さっすが、快斗v
 分かっちゃった〜〜?

 さ、着替えて用意出来た?
 それじゃ外に出て、青子を探してねv

 最後のカードは青子が持ってますv
 タイムリミットは夕方5時。
 それを過ぎたら帰っちゃうからね!
  
 青子より☆』



「・・・マジかよ・・青子の行った場所・・・?
どこ行きやがった!?アイツ!?」

俺は鍵と財布をポケットに突っ込んで、玄関に向かった。
戸締りの確認も忘れずに、外に出る。
青子が行きそうな場所・・・。
今日は平日だしなぁ・・・。
俺はとにかく駅前に行くことにした。
青子が買い物に行くのは大体駅前に集中している。
本屋に雑貨。
駅ビルに、花屋。
お気に入りの喫茶店だって、駅ビルの近くにある。

天気が良いな・・・
俺はそんなこと考えた。

ったく、アイツもどこ行ったかヒントくらいくれればいいのによ。
そしたら、さっさと掴まえて。
一緒に散歩するのも悪くねぇ天気だ。
あ、平日だし空いてるから映画見てもいいな。
でも・・ヒントも残さなかったってことは、きっとヒントにも出来ないくらい、
簡単な場所なんじゃねぇか?
俺は少し考える。
今日は俺の誕生日だし、きっと青子はケーキ屋には行くな。
まさか今日はこれからケーキ作らないだろう。
だとしたら・・・最近青子が気に入ってる駅ビルの中のケーキ屋。
なんていったっけな?
あそこには行ってそうだ。
何はともあれ、駅ビルだな・・・。





「遅いっ!!15分の遅刻!!」

ぷんすかほっぺたを膨らませてるのは、俺の幼なじみ。
子供っぽいなりのままの性格だが、これでしっかりしているとこはしっかりしている。
待ち合わせの場所に15分も前から待っていたりすることは、俺は誰よりも良く知っていた。
それなのに・・・

「ごめんっ!!マジで時計が遅れててよ〜〜〜!」

俺は手を合わせて、頭を下げた。
何しろ今日は俺が誘った映画だ。
いや、今日という日を一緒に過ごそうと言ってくれたのは、青子なんだが・・・
青子が誘ってくれなくても、今回は俺が誘おうと思っていた。
それなのに・・参った。
自分の部屋の時計が10分以上も遅れてることに気付いたのは、
本当についさっきの時間。
青子は30分近く待っていただろう。

「本当に悪かった!!今日は、俺が奢るよ?」
「・・・本当?」
「ああ!」
「・・・なんでも?」
「・・・ああ。」

うーんと少し首を傾げて、青子は笑った。
その笑顔にホッとする。

「んじゃマロン生クリームで許してあげる!」
「・・なんだよ、それ?」
「知らないの?あの映画館の横に出来たクレープ屋さん。
すっごく美味しいんだよ〜〜〜v」
「ふ〜ん・・・」

我ながら意地の悪い声だったと思う。
青子は不思議そうに俺を見上げてきた。

「どうしたの?」
「・・・なんでもねぇ」

俺は歩き出していた。
慌てた青子が後をついてきて、隣りを歩き始めた。
そこが、青子の定位置だった。
俺の隣りを。
この距離で歩けるのは、お前だけ。

「・・・・」

そんなの知らないだろう。
俺も言ってないからな。
青子なんか一生かかっても気付かないと思う。

「ねぇ、快斗見て!」
「?」

服の袖を引っ張って、俺は青子の指差す上を見上げた。

「真っ青な空。綺麗ね・・・珍しくない?」
「空がか?それより、上ばっか見てると・・・あっ」
「わっ!?」

躓いた身体が、がくんとバランスを崩す。
俺は向こうに倒れないように、引き寄せた。

「ありがと、快斗・・」
「・・・ああ」

軽い身体。
片手で簡単に抱き寄せられる。
いつからだろう?
いつからだ?
こんなにコイツと俺がちがくなってしまったのは。
コイツがこんなに細く、棒みたいに軽くなってしまったのは。
それなのに。
やたらキレイに輝くもんだから、その無邪気な笑顔さえも
簡単に人の目を引き寄せやがる。
おもしろくねぇ。
俺は青子を抱き上げて、しゃんと立たせてやった。

「快斗・・ありがとうv」
「ああ・・」

映画館につくと、その周りはいい匂いで充満していた。

「美味しそうな匂い〜〜vね?」
「そうだな・・・俺には甘すぎるけど・・・」
「快斗クレープ嫌い?あっちの映画館、中でクレープ食べていいんだよ?
一緒に食べようよ?ね??」

必死で俺を引っ張って、その列に並ぶと青子は満足そうに笑って言った。

「初めて食べた時、今度は快斗と来たいなって思ったんだよ?」
「・・・・」

じゃ、最初は誰と来たんだよ?
言葉にならない、愚問。
自分に呆れる。
何をイラついてるんだろう?
そんな必要はないのに・・・青子は今、俺の隣りにいるのに。
苛立ちは収まらなかった。
青子がすごく幸せそうにクレープを頬張っても。
残酷なくらい、容赦ない甘さが憎らしいほど。
俺は味も何も感じなかった。


帰り道。
なんだか青子は変におしゃべりだった。
映画の感想やらなんやら、昨日の出来事、明日のこと。
まるで沈黙から逃れようとするように、ずっとだ。
俺はなんだか酷く冷めた気持ちで、それを聞いてた。
不安そうな瞳。
嫌いだった。
俺が守ってやりたいのに、どうしてそんな顔をさせてるんだ?
どうして青子を傷つける?
俺の無言が。
俺の空気が。
青子を追いつめてるではないか。
今、こんな沈黙の中で、俺はどうするつもりなんだろう・・・

いつだって、大切なことは何一つ言えないくせに。

「快斗・・・」
「ん?」
「なに、怒ってるの?」
「何も・・・」

そうだ、何も悪くない。
俺以外、何も誰も悪くなかった。
青子に好意を寄せた男も。
その誰かと出かけた青子も。
誰も、悪くない。

「嘘・・今日ずっと様子おかしかったよ?
何か・・・あったの?」
「・・・・」

お前はいつもそうだ。
いつだって気づいて欲しくない所に酷く敏感で。
俺が知って欲しい場所には、とことん鈍感なんだ。
それでも愛しくて。
大好きで。
俺は・・・

「何を怒ってるの?
今日・・楽しくなかった?
もしかして・・・・他の誰かと約束してたの?」
「それは・・・お前じゃないの?」
「?」
「なんでもねぇ・・・」

これ以上はまずい。
自分の中で警告音が鳴り響く。

「・・どういう、意味?」
「なんでもねぇって・・」
「快斗・・何を誤解してるの?」
「・・・・」

足が重い。
もうすぐ俺の家が見える。
そこから青子の家まで・・・そうかからない。
何かを変えるつもりだった。
今日という日だけは、もっと優しい気持ちで過ごせると思った。
それなのに・・俺は変わらなかった。
何も。
否、それ以上に。

醜い感情が押し寄せる。

「ねぇ、快斗・・聞いて?」
「・・・」
「快斗・・返事してよっ!」
「・・・青子・・」

気付かなかった。
顔を見るまで。
ずっと、ずっと泣いてた?
零れ落ちてるそれに、俺は心が凍った。




「・・どうして・・何を怒ってるの?
快斗・・・青子・・なにかしちゃった?
だから・・っく・・前みたいに、笑ってくれないの?
前みたいに、話し掛けてくれない。」
「・・青子・・・」

「全然分かんないよっ!!こんなに・・・こんなに傍にいるのに・・
青子・・・ひっく・・快斗の気持ち全然分かんないっ!!
もう・・青子のこと嫌いになっちゃった?
幼なじみなんて、迷惑なの・・・・?
だから・・・っくん・・・青子のこと・・・そんな目で、見るの?」
「・・う・・青子、・・違うんだ・・」

「・・・じゃあ・どうして・・?」
「青子がっ!!お前が・・・」

違う青子じゃない。
これは俺の我儘。
幼なじみでしかない彼女を、これ以上俺に繋ぎとめておくことは出来ないだろう。
でも。
俺にはお前が必要で。
お前が誰かのモノになるなんて、想像も出来なかった。
あの日まで。
先週お前があの先輩と映画館の前にいるまで。
当たり前みたいに、お前の存在を信じていた。


「・・・好き、なんだ・・・」
「・・・・」
「好きなんだよっ!!俺は青子が・・
幼なじみだからじゃなくて、それ以上にお前が好きなんだっ!!」

青かった空は時間と共に曇ってしまっていた。
俺の気持ちも。
今の沈黙に、近い色で。

俺が怖かったもの。
この沈黙。
永遠に近い絶望。
失うなんて、出来なかったから。
縛り付けたかった。
幼なじみの特権で。
バカみたいに、脆い絆で。


「・・・・じゃ、どうしてそんなに哀しそうなの?」
「・・・」
「どうして、そんなに悩むことがあるの?」
「・・・」
「青子だって、一緒なのに・・・そんなに哀しそうにしないで。
知らなかったの?」
「・・・何を?」

信じられない思いで、俺は青子を見つめる。
強い瞳。
真っ直ぐに俺を捕えてくれるその瞳。
俺の気持ちも嘘も全部。
見透かされてるようで、怖かった。

「青子、ずっと快斗のこと好きだったでしょう?
こんなに一緒にいたのに。
快斗、知らなかったの?」
「・・・知らない・・」
「・・・青子も、知らなかった。
だって、初めてじゃない?」
「・・・・」

太陽みたいに真っ直ぐな笑顔。
輝きはこんな空の色に負けることはなくて。

「青子のこと好きって言ってくれたの。」

「初めて、聞いたよ?」

涙が零れた。

でも、さっきみたいに。

その涙は俺の心を凍りつかせない。

まるで。

全部を溶かしてしまいそうな。

柔らかい、光――――――










「俺も若かったよなぁ〜〜〜」

笑みが零れた。
あの日と同じような青い空。

俺は不意に分かった。

青子のいる場所。

きっとあそこだ。

妙な確信。

それは絶対。






last・・・★







青い空。
真っ青な色。
梅雨の合間に見せるそれは、
もうなんだか夏みたいで・・・

青子はただぼんやりとそれを見ていた。

気持ちが良い日。

今日は特別な日。

毎年やってくる。

毎年一緒に過ごす。

大切な一日。

あなたのHappy birth day・・・


青子はずっと昔から、快斗が大好きで。

今もそれは変わらなくて。

きっと、これからも変わらない気がする。


永遠なんていつまでなんか分からないけど、
ずっと変わらないことが永遠なら、青子は永遠に快斗が好き。

そう思う。

もう何年になる?

18の誕生日の時に。
初めて互いの気持ちを口にして。
恋人っていう関係に発展してから・・・まだ2年。

・・まだ幼なじみの時の方が長いんだもんな。
早く恋人同士の時間の方が長くなったらいいのに・・・でも。
その頃って青子も快斗も。
もうおじさん、おばさんだよね?

「・・・その時まで、一緒にいれるのかなぁ?」

呟いた言葉は空に運ぶ風にかき消される。
そうして風は新しい風をすぐに連れてくる。

「見っけた・・・」

「・・か、いと・・?」

後ろから急に抱きしめられて、でもその声に青子は気付く。
駅ビルの屋上。
最近出来たオープンカフェ。
その席にポツンと一人でロイヤルミルクティーを飲んでた青子に。
突然それは降って来る。


「ったく、回りくどいことしやがって〜〜。」
「ふふ、お疲れ様v」

快斗は青子の向かいではなく、すぐ隣りの席に座った。

「あ、俺アイスコーヒーね」

水を運んできたウェイトレスにそう言うと、快斗は辺りも気にせずに
青子の顔を覗き込んで、唇を重ねた。

「きゃっ!?な、なに?」

真っ赤になって青子が驚く。
ったく、騒がなきゃ周りも気付かねぇのに・・・

「なにって、今日まだキスしてねぇだろ?だから。」

あっさりと当然のように言う快斗に、青子は言葉を失った。
でも・・・。
笑みが浮かぶ。
快斗らしい。
いつまで経っても、快斗は子供みたいだ。

「えへへ、大好き快斗v
お誕生日おめでとうv」
「んじゃ、キスして。」
「・・・・」

甘える恋人。
見て見ぬ振りの他人たち。
青子は少しだけ感謝を込めて。

その唇に触れた。

「大好き、快斗。」
「最後のカードは?」

当然のように手を差し出す快斗に、青子は呆れる。
まだ覚えてたんだ・・・
不意に思いついて、ウインクをして見せた。

「それも快斗が探してv
無理だったら、スペシャルプレゼントなしねv」
「・・・ここで脱がしてもいい?」


思わず二発程殴ってしまったけれど。
これは文句言えないわよね。


それにしても。
良いお天気v

こんな日は散歩して帰ってもいいかな?










THE END・・・







2001/06/21


Written by きらり

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