雨の中の月と嘘






約束の時間は午後7時。
今朝からずっとドキドキしてる。
今日は土曜日。
午後で授業もおしまいだし。
そしてなにより。
今日はKIDと会う日なのだ。
それもね・・・KIDが青子の部屋に来るの。
今夜はお父さん帰ってこないし。
話したいことがたくさんあるから。
だからKIDを招待した。
一緒に夜ご飯、食べようって。
「もう、こんな時間・・・早く着替えないと。」
ずっと料理の下ごしらえしてたから、すっかり遅くなっちゃってることに
気付くのが遅かった。
もう6時過ぎてる。
胸がドキドキしてる。
久しぶりに逢うわけじゃないのに。
まるで初めて約束を交わしたみたい・・・。
何着ようかなぁ?
家の中なのに、変にお洒落しても変だしね。
それでも・・やっぱりKIDに可愛いって思われたいな。
本当に、何着よう??
悩みに悩んで、結局パステルピンクのサマーセーターにした。
お気に入りのデニムのミニスカート。
ドキドキしてしょうがない。
嬉しくて、鼻歌を歌ってしまってる。
KIDに逢ったらまず何を話そう?
昨日のおもしろかった恵子たちの話。
この間見つけたお気に入りのお店のこと。
そして、学校でKIDと歩いてるのを見られちゃって、
快斗と付き合ってると思われちゃったこと。
そして・・快斗がKIDといつでも外を歩けるようにと、
快斗と付き合ってることにしてくれてること。
何から話そう?
KIDはやっぱり良い気分しないかなぁ?
青子だって反対の立場だったら・・・嫌な気持ちするかもしれない。
冗談でも、他の人と付き合ってるなんて・・・・。
どうしよう。
やっぱりそんなこと、いけなかったことかもしれない。
「・・七時のニュースです・・・今朝・・の・・」
「あっ!」
テレビからニュースが流れてきて、青子はハッとした。
KIDが来ちゃうよ!
階段を駆け上がり、そうして青子の部屋を開ける。
急いでベランダのカーテンを開ける・・・
「・・キッド・・・」
にっこりと笑みを浮かべて、KIDが立っていた。
嬉しくて言葉が詰まる。
それでも急いで鍵を開けて、窓を開けた。
「ごめんね、遅くなっちゃって・・」
「今来た所ですよ。今夜はお招き頂いて、ありがとうございます。」
優雅にシルクハットを取って、丁寧にお辞儀をしてみせる。
その仕種に青子はぼうっと見惚れてしまった。
KID・・王子様みたい・・・。
「あ、れ?雨・・降ってきた?」
「そのようですね・・・」
KIDを招き入れて、窓を閉める。
見上げると空は藍色に曇っていた。
ポツポツと小雨が落ちてくる。
明日は雨なのかなぁ?
「・・・本降りになる前で良かったね。
濡れてなぁい?」
KIDを見上げると、うん大丈夫そうv
青子はホッとして笑った。
「どうしました?」
不思議そうにKIDが見つめてる。
えへへ、嬉しいのバレちゃたかなぁ?
すごく嬉しいんだもん。
KIDに逢いたかったから。
すぐ目の前にいる。
それが嬉しい。
恥ずかしいのに、すごく嬉しいの。
変だよねぇ、青子・・・
じっと見つめてると、KIDは視線を外して手を伸ばした。
「?」
その両腕に抱きしめられる。
白い服の感触に、その確かな温もりにホッとする。
「・・・・・」
確かな感触にホッとする。
KIDが青子の目の前にいる現実。
KIDが誰でもなく、KIDであることを思う瞬間。
そうして青子を抱きしめてる今。
青子は嬉しいと思う。
まるで夢みたいに現れて。
まるで夢みたいに優しいから。
青子は時々・・不安になるの。
貴方が本当はどこにもいなくて。
貴方は本当は誰でもなくて。
そうして青子は、そんなKIDに恋をしていて。
それが苦しくなるの。
夢みたいに。
時々・・・


「キッド・・・たくさんね、話したいことがあるんだよ?
ねぇ、今日はずっと一緒にいてね?」
「・・・・・」
見上げたその表情が変なふうに歪んだ。
そして瞳がまっすぐに青子を見つめてくれない。
部屋のあちこちを移動して、そして少し言いづらそうに口が開いた。
「・・・ずっとって・・」
「?」
どうしたんだろう?
こんなKID見たことないよ?
KIDどうかしたのかなぁ?
「その・・・はぁ〜〜〜。」
がっくり肩を落として、もう一度しっかりと青子を掻き抱く。
青子の肩にKIDの顔が埋められてる。
少し情けなそうに、KIDは言った。
「私だって・・ただの男なんですよ?
そんなふうに無邪気に・・私を惑わせないで下さい・・・」
「・・・・????」
まどわせる?
青子が?
KIDを?
・・・・どうしてぇ??
頭の中ハテナマークが賑やかに飛んでる。
KIDは青子を抱く手を緩めて、優しい眼差しで見下ろした。
「?」
急に額にキスされて、青子は瞳を閉じた。
「ほら、ね?貴女はなにも分かってない・・・好きですよ?
青子・・・」
「・・・・」
ズルイ。
恥ずかしくて目が開けられない。
だって。
今きっとすごい顔してる。
KID・・ずるいよ〜。
そんな顔見たら、青子は恥ずかしくて真っ赤になっちゃうに決まってる。
見たいのに目が開けられない。
・・・・なにも分かってない?
青子が?
なにを?
KID??
「・・るい、ずるい!そんなふうに言わないでよぉ〜。
青子・・キッドのこと、好きなんだよ?」
「・・・」
その胸に顔を埋めて、瞳を閉じたまま。
青子は繰り返した。
「好き、なのぉ〜。どうしてそんなこと言うの?
青子がなにを分かってないの?
それなら・・・どうして教えてくれないのぉ?・・」
不安で恥ずかしくて、悲しくて。
青子の頭の中はぐちゃぐちゃになっちゃう。
貴方に逢えて、すごく嬉しいのに。
青子は貴方の言葉の意味が分かんない。
悔しくて恥ずかしくて、どうにかなっちゃいそう・・・。
「青子・・・泣かないで、私の天使・・。
貴女を泣かせるつもりなんて・・・砂の粒ほどないんです・・・」
「・・・・・」
優しい声が降ってくる。
その手が何度も青子の頭を撫でる。
片方の手で閉じ込められる。
その白いマントの中で、青子はそっと瞳を開けた。
真っ白いスーツ。
青いシャツ。
見慣れた赤いネクタイ。
どれもKIDの・・・
「青子・・・ごめんっ!
ごめんな?愛してる、青子・・・」
「・・・・」
そんなふうに。
そんなふうに謝ってくれたの、初めてだね?
いつも気障な台詞で青子を恥ずかしがらせる貴方なのに・・。
謝る時だって、とても余裕があるように見えるんだよ?
そんなふうに謝ってくれるなんて・・・

『ごめんな?愛してる、青子・・・』

「?」
なに?
今頭の中で声が響いた。
今の・・・KIDの声だよね?
なんだろう?変なの・・・
「なぁ、青子・・・?怒ってるのですか?」
不安そうなKIDの声がすぐ耳元で響いた。
青子は笑いかける。
KIDの不安を消し去ってあげたくて。
自分の中の変なもやもやを打ち消すためにも。
にっこりと、笑いかけた。
「大好き、キッドv」
「・・青子・・・」
その瞳が嬉しそうに微笑んで、そうして優しいキスが降ってくる。
「ね?お腹空いてなぁい?
青子、キッドのために腕ふるったんだよ!ご飯にしよう?」
「・・・実はもうペコペコなんですよ。
青子が夕飯をご馳走してくれるというので、空腹にしてきたんです。」
KIDのそんな言葉に嬉しくなる。
青子はKIDの手を引いて、部屋を出ようとした。
「・・・」
そうして足を止める。
KIDは不思議そうに青子を映した。
恥ずかしいからうんっと伸びをして、その耳に小さく囁く。
「・・・あのね、逢えて嬉しい。キッド・・・v」
「・・・私もです。」
青子の大好きな笑顔で、KIDは笑ってくれた。


テーブルには青子が作れる限りのお料理を並べた。
ハンバーグにポテトサラダ、クリームシチューにグリーンパスタ、
それにエビピラフにチキンドリア。
デザート特製プリンも作って冷やしてある。
ちょっと作りすぎちゃったかなぁ?
「・・・すごいご馳走ですね?」
「えへへ、ちょっと作りすぎちゃったかなぁ?
残しても大丈夫だからね?明日、お父さんに食べさせちゃう・・・
ねぇ、キッド・・・?」
「はい?」
青子はちょっと疑問だった。
席に座ってくれたKIDに飲み物をだして、グラスに注ぐ。
「その格好のままなの?その・・汚れちゃわない?」
「ああ、大丈夫ですよ?」
「・・・・」
そうじゃないの。
本当はね・・・KIDの格好で居て欲しくなかったの。
二人きりなんだもん。
本当の姿のままで、一緒にいたいなんて・・・言えないよね・・。
「・・・それじゃ、零してもいいように着替えようかな?」
悪戯っぽく微笑むとKIDは指をパチンと鳴らす。
ポンッと派手に音がして、青子は目を閉じてしまった。
開いた時には・・・・
「わあ・・キッドすごぉい。」
いつものKIDの白のスーツではなく、黒いシャツをラフに着込んだ
格好になっていた。
そしてその両手には抱えきれないほどの赤いバラの花束。
「今夜はお招きありがとう。これは私の青い天使に・・・」
そう言って花束を差し出される。
青子はまるで夢を見ているみたいにそれを受け取った。
包み込まれるバラの香りに。
その花の重さに、青子はKIDを見上げる。
一体どこにこんな花を隠してたんだろう?
本当に・・・魔法みたい・・・。
これはマジック?
それとも本当?
まるで・・・快斗みたい。
マジックがとても上手で、いつもこんなふうに青子を驚かす。
それが嬉しくて、楽しくて。
青子はいつも笑ってしまうの。
「気に入って頂けましたか?」
「うんっ!」
花束を抱きしめて、まるで夢みたいな幸せに。
青子は笑った。
「待ってて、今シチュー温めなおすから・・座って、食べててくださいな。」
「それでは、お言葉に甘えて・・・ご馳走になります。」
優雅にお辞儀をしてから席につく。
青子はそれを見守ってから、花瓶を探しにキッチンへ戻った。
おいしいって思ってくれるかなぁ?
不安だけど、今はこのバラを花瓶に入れてあげたい。
そうして温めたシチューを持って、KIDのとこへ戻ろう。
たくさん食べてくれるといいな。
おいしいって思ってくれたら、それで幸せなの・・・。
                               

「・・・・・」
「・・キッド?」
食後二人はリビングのソファに座っていた。
コーヒーを出して、自分のココアをテーブルにのせる。
そうしてソファに凭れてるKIDにそっと近寄った。
「おいしくなかった?」
不安で思わずKIDを覗き込んでしまう。
膝をついて、その膝にそっと手を乗せた。
「・・・・」
その手を掴まえられて、引き寄せられる。
「あっ・・」
恥ずかしくて顔が熱くなる。
KIDの身体に凭れかかってしまってる。
抱きしめられて、その耳に甘く囁かれた。
「美味しかったです。苦しいくらい、食べ過ぎてしまいましたよ?」
「・・・・よかった・・・」
ホッと息を漏らして、青子はちょっと身体を捩らせた。
この格好はちょっと恥ずかしいんだもん・・・。
「・・・キッドぉ〜〜〜・・」
困ってしまう。
離してくれない。
思うように動けないよ〜〜〜。
「あのね・・デザートのプリンもあるんだよ?
食べる?・・あの・・持ってくるから・・・・」
離して・・・そう言いたいのに、上手く言葉が繋がらない。
KIDは不思議な色の瞳で、青子を見つめてる。
どうしたの?
どうしてそんな目で見るの?
恥ずかしくて・・・青子は・・・。
「今は・・もう少しだけ、こうしていたい・・」
「・・・キッド・・・」
後ろから全部抱きしめられちゃう。
すっぽりと抱き包まれて、青子はちょこんとKIDの上に座ってしまってる。
こんな格好・・・すごく恥ずかしいじゃない?
でも・・・。
なんだろう?
少し力を抜くと、なんだか安心できた。
KIDの体温が伝わってくる。
それが貴方の緊張を伝えてくれる。
青子一人がこんな思いしてるんじゃないって分かると、
とっても安心した・・・。
今なら、話せるかなぁ?
たくさん話したけど、まだ快斗のこと話してなかった。
だって・・・青子だって嫌な気持ちするようなことなんだもん。
いくらKIDとデートしたいからって、そんなの・・・ダメかもしれない。
「あのね・・キッド?」
「はい?」
「あのね・・実はね・・・この間、二人で映画に行ったでしょう?」
「・・・」
黙ってKIDが聞き耳を立てているのが分かる。
青子は少しだけ体重をKIDに預けて、凭れかかった。
そうすると今まで抑え付けるように抱きしめていた腕が、
力を抜いてゆったりと青子の身体を抱きしめてくれる。
「それをね・・・どうやら学校の人たちに見られてたみたいで・・
その、キッドを快斗だと思い込んじゃってね・・・噂になっちゃったの。」
「・・・それは、青子困ったでしょう?」
「うん・・そうなんだけどね、それで快斗が・・みんなにそう思わせとけって言うの。
あ、あのね!変な意味じゃなくて・・その快斗ね、心配してくれてるの。」
「・・・・・」
言わない方がいいのかなぁ?
テーブルの上のコーヒーとココアの湯気を、なんだか静かな気持ちで
見つめてしまう。
でも・・・隠していたくもない。
「青子がいつでもキッドと外で逢えるようにって・・・快斗だと思わせておけば、
気兼ねなくデートできるだろうって・・・キッドはそんなの・・嫌よね?」
「・・・・・」
返事がない。
青子は不安になった。
やっぱり言わない方が良かった?
それとも・・嫌な気持ちでいっぱいにさせちゃった?
どうしよう・・・。
「彼がそれでいいと、おっしゃったんですか?」
「えっ?」
「青子の幼なじみはそれで良いと?」
「・・・うん・・・」
ドキドキする。
不安で、怖くて。
KIDを怒らせてしまった?
それ以上に。
不愉快な思いをさせてしまった?
それが怖い・・・
「それなら、時々は甘えさせて頂きましょうか?」
「・・・キッド?」
明るいトーンのその声が、すぐ耳元で擽る。
それって・・・
振り返ってKIDの顔を見つめた。
青子はまん丸な目をしていたのかもしれない。
KIDがおかしそうに青子に微笑みかける。
ちゅっと音を立てて、額にキスされた。
「青子が一緒に外に出かけたい時、その時は一緒に出かけましょう。
彼の好意に甘えて、一緒に歩きましょうか?」
「・・・うんっ!」
嬉しい。
一緒に歩けることもそうだけど。
それ以上に。
快斗の提案をKIDが承諾してくれたことが。
「あ、コーヒー冷めちゃうよ?」
「頂きます。」
そっとカップを手渡して、青子もココアを飲んだ。
甘くていい匂いで、ホッとする。
今までの胸のつかえが一気にとれて。
青子はなんだか幸せな気持ちになった。
安心して、なんだか眠くなる。
子供みたい・・・自分でもそれが可笑しくて。
少し笑ってしまってた。
「なんですか?」
KIDが覗き込んで聞いて来る。
青子は嬉しくて、すごくそうしたくて。
ちょっとだけ唇を重ねた。
「・・・・」
「ふふ、キッド変な顔してる。」
「・・・不意打ちですよ・・・」
手の平で唇を押さえ込んで、KIDはそっぽを向いた。
KIDってば、照れてるの?
頬が微かに赤い。
それが嬉しくて、青子はくすくす笑ってしまう。
ますますバツが悪そうに、KIDは顔を背けてしまう。
「ねぇ、キッドこっち向いて?ねぇ・・」
甘えて青子は彼に囁く。
こっちを向いた時は、彼はいつものポーカーフェイスに戻っていた。
青子より、もっと余裕のその笑みを浮かべて。
ゆっくりとその唇を合わす。
「・・・青子」
「・・・キッド・・くすくす、ココア味のキスになっちゃったね?」
面を食らったようにKIDは頬を染めた。
その様子が可笑しくて、青子はクスクス笑ってしまう。
「・・・・え?」
「?」
急に何か弾けた。
頭の中で?
どこか遠い意識の中で。
なに?この感じ・・・。
前にもこんなこと言った気がする。
どこで?
誰に?
どうして?
「青子?」
急に黙り込んだ青子を、KIDは覗き込んだ。
「ごめんね?なんでもないよ?」
心配そうに青子を見つめるKID。
こんな彼を青子はもうずっと前から知ってる・・・?
なんか、変。
どうしちゃったんだろう?
なんか・・・青子・・・
「ごめんね・・ちょっとはしゃぎすぎて疲れちゃったみたい・・・」
「・・・横になりますか?」
大丈夫・・そう答えようとした時には、もう抱き上げられていた。
「えっ??」
KIDはそのまま青子を二階へと運ぶ。
真っ直ぐに青子の部屋に向かって、ベッドに青子をそっと下ろした。
額に手が当てられる。
ひんやりしてて、気持ちいい・・・。
「熱は・・ないようですが・・大丈夫かな?青子・・?」
心配そうな貴方の瞳が切なくて、青子は元気に笑った。
そんな顔、見たくないよ?KID・・・
「本当に大丈夫なんだってばv心配しないで、キッド!」
「・・・貴女に・・・」
柔らかく、そうっと包み込まれるように抱きしめられて。
青子はドキドキしてしまう。
今更なのに・・どうしてこの腕の中はこんなにドキドキするんだろう?
「貴女になにかあったら・・・俺は・・・」
「・・・キッド・・・」
「私は」とは言わないんだね。
ごめんね、心配かけちゃってるのに。
それが嬉しい。
感情をあらわにしてしまう時、KIDは自分を「俺」と言ってくれる。
それが嬉しいなんて・・・KIDが知ったらびっくりするかも。
笑みが零れる。
嬉しくて。
幸せで。
瞳を閉じると・・・雨の音。
外ではだいぶ雨が降ってるみたい・・。
静かに雨の音だけが青子の耳に響く。
大好き・・・KID・・・
「心配しないで・・時々頭痛がするの・・・」
何か頭の中で弾いたみたいに。
何かを思い出しそうなんだけど、何を思い出すのか、それが分からない。
思い出すことなんか、そもそもあるのかな?
それすらも確かじゃないんだもん・・・。
「・・青子・・・少し横になるか?
ずっと傍にいるから・・・・。」
「うん・・・」
素直に横になって瞳を閉じた。
そっと布団がかけられる。
目を開けると、すぐ近くにKIDの顔があった。
「・・と・・?」
「?」
「・・・キッド・・・ごめんね?心配かけて・・・
青子、すぐに良くなるから・・ちょっと眠れば大丈夫だから・・・
だから、心配しないでね・・?」
KIDが優しく笑ってくれる。
その顔好き。
すごく安心するの・・・まるで誰かに似てる。
誰だっけ?
すごく好きなの。
・・・KIDか・・・
青子が好きなのは、KID。
ずっと前から・・・ずっと前から?
ずっとってどれくらい?
もう小さい頃から・・・
ずっと・・・・
頭の中がぼやけてくる。
目が開けていられなくて、青子は必死にKIDの姿を探した。
手をぎゅっと握り締められる。
その強さにホッとする。

『いるよ。ずっと傍にいる。ずっとお前の傍に・・かったんだ。』

青子もだよ?
青子もずっと一緒にいたかった。
だから。
だからこの手を離さないで?

「ごめんな?愛してる、青子・・・」
「・・うん・・・キッド・・・」
耳元で切なそうに囁かれる。
そんな声で言わないで。
そんな心配そうに、悲しそうに。
ごめんね、キッド・・・
すぐに良くなるから。
だから、心配しないで?

頬に何かが触れる。
温かくて優しい感触。
瞼にも。
額にも。
唇にも少しだけ。
触れて、すぐに消えてしまった。

消えてしまったーーーーーーー



「・・・?」
意識が急に目覚める。
何時?
ここは?
青子の部屋?
どうして?
起き上がろうとして、手を握られていることに気が付く。
「キッド・・・」
笑みが洩れた。
しっかりと握り締めてくれたまま。
KIDはベッドに凭れて、目を閉じていた。
目覚し時計を確認する。
夜中の2時。
ずっといてくれたんだ。
ずっとこの手を握ってくれてたんだ。
嬉しくて。
嬉しくて青子は微笑んでいた。
その寝顔の幼さにドキッとする。
瞳が伏せられていて、表情はない。
あどけない寝顔。
本当に似てる。
快斗に・・・。
「・・か、いと?」
呟いてハッとする。
何言ってるんだろう、青子ったら・・・
「・・・おこ?ごめん・・な・あ、お・・」
「・・・・」
青子の夢、見てるの?
どんな夢?
どうしてそんなに悲しそうなの?
夢の中で、青子はどうしてるの?
ねぇ・・KID・・?
「キッド・・好きなの。だから、行かないで?
どこにも・・青子の傍にいて?・・お願いだから・・・
そこにいてね?ずっと青子の傍にいてぇ・・」

『いるよ。ずっと傍にいる。ずっとお前の傍に・・かったんだ。』

約束よ?
目が覚めても、傍にいて。
ずっと青子の傍にいて。
何があっても。
いつまでも。
青子の傍にいて・・・

ずっと、
そこにいてね?




カーテンの隙間から零れてくる朝の日差し。
屋根の上から鳥のさえずりが響いてくる。
「・・?」
目が覚めると。
部屋には誰もいなかった。
「キッド・・・?」
思わず左手を見つめる。
ずっと握っててくれたよね?
あれは夢?
「あ・・」
枕元に一輪の白いバラを見つけた。
何かくくりつけてある。
紙・・・。
そっと外して広げて見る。

『具合は如何ですか?
朝と共に私は去ります。
不安な夜は思い出して。
いつまでも、貴女の傍に・・・・

            KID』

いてくれたんだ。
やっぱり昨夜目覚めた時、一緒にいてくれたんだね。
あんまり幸せで。
あんまりあやふやで。
どこまでが本当か。
どこまでが夢なのか。
さっぱり区別がつかなかった。

でも。
一緒にいてくれたのは本当。
KIDが傍にいてくれた。

それだけが本当。

それだけで、構わないの。

他はなんでも。

夢だとしてもーーーーー



END OR・・・?



2001/04/28







Written by きらり

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