決して見られたくなかった



誰でもない




貴女にだけは








アゲハ蝶








白は潔白

誇りと主張

そして、全ての解放



夜は快楽

自由と束縛

そして、闇の始動



白に身を包み
闇に心を静める
浮かべるのは冷笑
秘密を沈黙に沈めて。
心はいつも秘密を求めて。
そうして、俺は何処にもいなくなる。

そう、彼女に逢わなければ・・





予告の時間通り。
姿を現して、獲物を奪う。
手に入れたそれを月に翳して。
次に出るのは白い溜息。

紅い紅玉を胸にしまう。
そうして瞳は先を捕らえた。

闇に浮かぶ、不安定な揺らめき。

心は何処にあるのか。

その瞳は定まらない。

何かを探してるようで。
何も見たくなさそうで。
不安そうな表情が胸を突く。

この姿を顧みる。

白に嘘を染み込ませた。

仮初めの姿。

その筈が・・・



「・・キッド?」

「・・・」

曖昧な瞳はそれでも確実に、俺を追い詰める。
風に靡く白いそれを彼女は見逃さない。
その瞳に宿る、キツイ光。
決してもう一人の俺が、知ることのない表情。

あんまり綺麗で溜息が洩れる。
言葉を紡ごうとしても、その真っ直ぐな色に偽りの言葉は力を失う。


「どうして、こんな所に?」

「・・・・」

屋上の強い風に少女のスカートは靡く。
それを何処か冷めた目で見てる自分がいて。
動揺を殺し、俺は笑みを象った。

「それは私の台詞ですよ。
中森青子さん・・・」

「・・・」

語尾が掠れてしまった。
知らず拳を握っている。
それを開いて、緊張を解放する。

「!!・・どうして、青子の名前・・・」

「私はなんでも知ってるのですよ?」

ああ、知ってる。
お前のことなら、なんでも。
その笑顔も泣き顔も。
全部知ってるんだ。


それでも、分からないことが一つだけ。

どうしても解けない秘密。



「どうして、貴女がここに?」


「・・・・」


見たこともない瞳の色に戸惑う。

キツイ青子の瞳。
俺を真っ直ぐに睨みつけてくる。
信じて疑わない。
俺を、怪盗KIDだと。
俺が、怪盗KIDだと。
信じて、疑ってない。
その瞳に真実を。
この唇に狂気をのせて。
嘘は、狂気を孕んで。
本当に、成れるのだ。


「貴女にこの闇は似合わない。
どうか、戻って下さい。
貴女の世界に。」

この夜ではなく。

明日の光の下へ。

そこにいる、俺を信じて?

「・・・・・・」

差し伸べられるのは、白く細い腕。

俺に向かうそれを、疑うことはない。

けれど、信じるわけにもいかない。

「触れて?」

「・・・・」

「キッド、貴方を掴まえてあげる。」

「・・・・・」

それは、信じられない程甘い声。

俺が知らない、青子の声。

まるで誘惑するように。
全てを許すように。

俺に真っ直ぐに差し伸べられる、白い腕。


「誰も貴方を掴まえてあげれないなら。
青子が掴まえてあげる。
だから、ここに来て?」

「・・・・・」

あがなう力が沈んでいく。
それでも俺は微笑を浮かべた。

「ご冗談を。
私は世紀の魔術師。何者にも、私を捕らえることは不可能です。」

丁寧に、丁寧な仕種で頭を下げた。

まるで観客にするように。

たった一人に捧げる。


「貴方を捕らえることは・・難しいかもしれない。
でも・・そうしないと、終わらないものっ!
いつまでも・・・この夜が終わらないのっ!!」

「・・・・」

青子の言葉が俺を留める。

すぐに飛び立ててしまえるのに。

必死な瞳。

優しい腕に。

思わず触れたくなる。

今にも泣き出しそうに、青子は俺を見つめていた。

「貴方が終わらせられないなら・・・青子が終わらせてあげる。」

「・・・・て?」

まさか・・・

俺は唖然とした。

もしかして・・青子は・・

「貴方が捕まれないなら、青子が掴まえてあげる!
だから、だから・・・」

必死な瞳。

それは・・誰に向けられてる?

怪盗KIDを、見てるんだろう?

「キッド・・青子の処に来て?」

「・・・・・貴女は・・?」

声が掠れる。

伸ばされた指先が震えてる。

必死に搾り出される声。

真っ直ぐに俺を見つめる瞳。



ああ、そうだ。

貴女の物になりたいと思った。

貴女に相応しい人間になりたかった。

焦がれて。

求めて。

ずっと、今も。


この瞬間も。


「夜の帳に白き蝶はさ迷う。
天使の誘惑は甘く、けれど痛いのです。
どうか・・・どうか、」

そこまでが精一杯だった。


俺はビルから飛び降りる。


青子の悲鳴が微かに聞こえた。


すぐにマントをハングライダーに変えて。

俺は夜の風に逃げた。




振り返る事すら出来なかった。


握る手が力を抜くと震え出すのが分かった。


だから、手に力を込める。







謝りたかった。


その手に触れたかった。

引き寄せて。

抱きしめて。


囚われてしまいたかった。




囚われたかった。



本当は。




今も。







ずっと。






★★★2002/05/20★★★


Written by きらり

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